日本人の発表を見ていて最もハラハラしたのは最後の口頭試問であった。パワポなどを駆使したプレゼンまではさすがに最終選考に残っただけあって安心してみていたが、質問時間はヒアリングができないため、即答ができないのだ。日本人英語は仕方ないとしても、意味不明の返答をしたために審査員に誤解されたと思われるような場面もあった。
東京大会では日本人ばかりが英語でやりとりするから目立たないが、アウェイで審査される場合には完全に不利になる。中国人や韓国人は、内容はともかくとして、捲し立てるから自信があるように見える。こんなところで日本人の謙虚さが出るから一見すると自信がないように見えてしまうのだ。発表内容は短時間で説明できないから、迫力あるアピール性が肝になる。これは語学だけの問題ではない。日本の外交上の交渉力にも当てはまるのではないだろうか。
スタートアップに必要な要素は何か?
- 諦めない精神力
- プラス思考(楽観的思考)
- 人真似をしない好奇心
- スピードと行動力
- 実行力と突破力
- 変化対応力と革新性
- 新鮮な発想
- 大局観
- 英語力(アピール力)
といった要素が必須だが、日本のスタートアップ企業は参加国の中では、上位に位置していた。今回のスタートアップワールドカップを通じて20代、30代の若手が台頭しつつあるのが期待できる。
かつては、大手企業内からベンチャーなど、等質変化するのが日本企業だったが、リモートが始まるなどして、変化が起きた。個人起業家が増えつつあるのも楽しみである。
シリコンバレーでなぜスタートアップが集中したのか?
シリコンバレーを支えるスタンフォード大学や、UCバークレー校の最も優秀な学生群は、まず個人でスタートアップに挑戦する。次の優秀な学生群はGAFAMに入社する。入社に失敗した学生群は伝統的有名企業に入社するようだ。
米国人の気風には元々チャレンジ精神があるが、それを支える投融資の規模が大きい。リスクマネーを賭けて失敗しても次回のチャンスに賭けるといった発想がある。
今をときめくGAFAMも元はといえば学生がガレージで始めたアイデアからの出発だった。産業界の大手企業も応援こそすれ邪魔することはない。米国の新陳代謝が進むのは、成功者は早く経営の一線から退くなどして、若い時期から勝負を賭ける起業家が多いからではないだろうか。
一方、日本の起業家はどうだろうか? 30年前から日本でも起業ブームは盛んになったが、投資家の層が薄いので、アイデアが優秀でもバックアップ体制が脆弱だ。
日本人は環境が厳しければ厳しいほどそれに対応するが、環境が変わらなければ泰平を貪ること、ということが歴史を見ても分かる。日本の歴史で変革を余儀なくされた時期は明治維新と戦後復興しかない。
これはあたかも昆虫が変態することに似ている。昆虫類が完全変態を行うようになった理由は気候の悪化に対応するため、蛹(さなぎ)の段階を経ることによって寒冷期を乗り切るように進化したためであったとされる。流行りのDX 「デジタルによる変容」も昆虫の変態のようなものである。
日本の明治維新は、黒船が現れ鎖国が維持できなくなって新体制に変革して時代を乗り切ることを選択したとの見方もできる。戦後復興も長崎と広島に原爆が投下されて生き残るために戦後体制に変革することで時代を乗り切ろうとしたと考えれば、日本人の価値観の激変を昆虫の変態にも似ているとの見方もできる。
以来、高度成長期を経て成功体験の繰り返しさえしていれば安泰な時代を過ごすことができたので、グレートリセットは必要ではなかった。ところが平成に入って天変地異と疫病の蔓延と世界的技術革新に対応できなくなって過去の30年間は転げ落ちるように日本の劣化が始まった。
昭和の経営スタイルである既得権益に依存する企業と役人との馴れ合い体制から脱皮するために不可欠なグレートリセットの牽引役がスタートアップ企業ではないだろうか。日本人のDNAには「進取の気」がある。何から何まで米国の真似をするというわけではなく、日本独自のスタートアップの火を消さないようにアフターコロナ時代に挑戦して行きたいものである。