2022年12月8日(木)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年11月2日

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熊野孝文 (くまの・たかふみ)

元米穀新聞記者

1954年生まれ。東京経済大学中退後、コメの相場情報として米穀市況を速報する仕事に8年従事し、米穀新聞の記者として農家と卸売業者、小売店と、それぞれが取引する現場を40年取材してきた。近書に『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』(中央公論新社)。

 米穀専門小売店、いわゆる米屋さんはコメの流通規制が撤廃されてから急激にその数を減らしている。食管時代に4万店もいた日本米穀商連合会(日米連)の加盟店は今や2000店にまで激減している。流通規制が撤廃され、コメはどこからでも買える時代になったことから米穀専門小売店という業態そのものが成り立ちにくくなったのだ。

(Aleksandra Selivanova/gettyimages)

 厳しい経営環境にありながら米穀小売店はそれぞれ独自の路線を模索し、存続しようとしている。また、小さい子供たちから外食事業者らにコメの大切さや美味しさを伝える地道な活動も展開し、少しでもお米ファンを増やし、自らの新たな存在意義を高めるとともにコメ文化の発展に寄与しようとしている。

出前授業で見える子どもや親のコメへの認識        

 埼玉県狭山市の古谷商店も出前授業を行っている米穀専門小売店である。代表の古谷祐一朗さん(47歳)は、日米連が審査して認定するコメの専門知識の資格制度の最高ランク5つ星マイスターの資格を持つ。

 古谷代表は妻の由華さんと一緒に保育園や幼稚園の月に1回程度訪れる。出前授業は基本的には要望に沿った形で行われるが、好評を博し地元のテレビ局や新聞で大きく取り上げられたこともあり、希望者も増えている。

「お米くん」のぬいぐるみを使った出前授業を再現する古谷代表(筆者撮影)

 夫妻に授業の模様を再現してもらうと、最初に取り出してもらったのがお米のキャラクター「お米くん」。コメを象ったぬいぐるみは、一番外側が籾で、その中に玄米、さらに精米を現したぬいぐるみが入っている。コメは、最初の姿は籾であり、それを籾摺りして玄米に、それから搗精して精米にして食べられるようになることを伝える。

 稲の姿を見たことがない子供が多いので、新潟の稲作農家から送ってもらった稲穂や根がついた稲も持参する。これらを見せながら「稲の品種はどのぐらいあると思いますか?」「ごはん茶碗一杯にどのくらいのコメ粒が入っていると思いますか?」といったクイズ形式で授業が進められる。

 授業の〆はご飯を炊いて幼児自らおにぎりにして食べる試食会で、この時、古谷夫妻が驚いたのが幼児からミルキークイーンについて「噛めば噛むほど甘みがする」という感想や、地元埼玉のオリジナル品種のご飯の臭いについて「チョコの臭いがする」とった感想も聞かれ、幼児にも品種によるご飯の違いが判るということが発見できたこと。なによりも幼児が授業を真剣に聞いてくれ、コメに興味をもってくれたことが励みになっている。

 こうした一面とは裏腹な声も出前授業を行っている小売店から聞こえてくる。それは小学生から「コメって何ですか?」という質問があったことだ。それだけではなく小学校の先生から「米屋さんっていたんですね」と感心される例もあったという。一般消費者のコメに対する意識がこうしたレベルになるのはコメ業界にとっては憂慮すべき事態だが、世間からは米穀小売店という存在はその程度にしか認識されていないということなのだろう。

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