円安は日本経済にとって
本当に「プラス」といえるか?
とはいえ、「円安は日本経済にとってプラス」と繰り返し、現行の金融政策を頑なに維持しようとする日銀の姿勢にも違和感を禁じ得ない。もともとQQEは、長く続くデフレからの脱却を目指した実験的な政策だったが、当初掲げた「2年間」ではっきりした成果を出せなかった。にもかかわらず、確たる出口戦略もないままに政策が継続されているのが現状だからだ。
為替変動は必ず「メリットを享受する者」と、「デメリットを被る者」を生む。円安の場合、前者はグローバル大企業、後者は内需型の中小企業や家計である。今でも計量モデルなどで計算すると、前者の利益がわずかに上回るとの見方もあるが、そうした議論に大きな意味があるとは思えない。以前であれば、円安で輸出が大きく伸びて貿易収支が黒字化することで日本全体の景気が良くなり、物価高騰の影響を受ける中小企業や家計も最終的にはプラスに転じるということがあり得た。しかし、海外生産移転などによって円安でも輸出がほとんど増えなくなった今、円安が中小企業や家計にとってプラスになるとは考えられない。
もちろん、円安の時も円高の時も相場は存在する。だがアベノミクス、QQEは一貫して円安を目指す政策だった。しかも、この間に法人税は減税される一方で、家計には社会保険料の引き上げなどが行われた。だから、過去10年間の成長率はその前の10年間と大きく変わらないが、その内訳をみると、個人消費がほとんど伸びていないのが大きな特徴である(逆に、輸出や設備投資は伸びを高めた)。そこへ現在のような極端な円安が加われば、家計への悪影響は明白であり、これを「全体としてはプラス」と述べるのが適切だとは思えない。
では、日銀はどう対応すべきなのか。ここでは、日銀が短期の政策金利をマイナス0.1%にするだけでなく長期金利、具体的には10年国債の利回りを概ねゼロ(正確にはゼロ±0.25%)に固定するという特異な金融政策、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール。以下、YCC)を行っていることを思い出す必要がある。
YCCが最初に導入された16年9月には、「短期金利がゼロになった後でも、さらに強力な金融緩和を進める手法」と説明されたが、YCCは為替レートの振幅を拡大するという性質を併せ持つ。海外金利が上昇した場合、短期の政策金利が固定されていても、通常は①国内の長期金利の上昇と②自国通貨の為替レートの減価という2つのルートでショックが吸収される。ところが、YCCによって国内の長期金利が固定された状態で海外金利が上昇すると、そのショックの大部分を②によって吸収せざるを得ず、その結果、為替が大きく変動することになる。