ところが、今年6月に米最高裁が銃規制や女性の妊娠中絶の権利に関し、次々と連邦法レベルでの規制を事実上認めない判決を出したことで空気が一変。特に、妊娠中絶の権利は憲法で保障されているとする「Roe v. Wade」判決をひっくり返す判断が6月に示されてからというもの、有権者の中間選挙における重要関心事項の中に「インフレ」「経済」に加えて「妊娠中絶」が加わり、この結果、共和党にとって逆風が吹き始めたという観測が出始めた。
しかし、投票日1週間前になると、再び、共和党が勢いを盛り返した。最大の理由は民主党の選挙戦術である。昨年から懸念されていた物価上昇が今年に入ってますます本格化。今や、全米の大半の家計をインフラが直撃している。
そんな状況であるにも関わらず、民主党は、「妊娠中絶」「女性の『選ぶ権利』」に関するメッセージを中心に据えた選挙戦を展開し続け、ナンシー・ペロシ下院議長の夫のポール・ペロシ氏がカリフォルニア州の自宅で不審者に襲撃されてからは、「民主主義の危機」がメッセージに加わった。
一般の有権者目線でいえば、このような問題について喧々諤々と議論ができるのは、生活にゆとりがあってこそ。民主党側の「女性の妊娠中絶の権利を守る候補者に投票しましょう」「民主主義の危機を救える候補者に投票しましょう」というメッセージは、毎日の生活が苦しくなる一方の有権者には響かないのではないかという分析が多数を占めていた。
投票結果が拮抗した2つの理由
それでも、ふたを開けてみれば、上院も下院も、民主党と共和党が拮抗。この予想外の結果が出た理由はいくつかある。第1は、「『meh』 有権者(=『なんかイマイチ』有権者)」といわれる層の投票行動である。
CNNの政治アナリストのクリス・シリッザ氏によれば、通常の中間選挙では、現職の大統領に対して「『meh』=なんかイマイチ」と思っている有権者は、対立政党の候補者に一票を投じることが圧倒的に多い。しかし、今回の選挙ではバイデン大統領に対して「『meh』=なんかイマイチ」と感じている有権者の多くが、それでも民主党候補に投票する、もしくは共和党候補に投票せず選挙に行かない、という、これまであまり例のない現象が発生した結果、民主党が予想外に大善戦したというわけだ。
この奇妙な現象が発生した原因として真っ先に指摘されるのがトランプ前大統領の不人気ぶりである。つまり、バイデン大統領に対しては「なんかイマイチ」と思っている有権者でも、対する共和党の実質的な「選挙の顔」が、党の岩盤支持増以外の層、特に無党派層には、バイデン大統領以上に不人気なトランプ前大統領であったことが、民主党の大善戦の原因だ、というのである。
確かに、今回の選挙は、トランプ前大統領の支持表明を受けて共和党の予備選挙を勝ち上がった候補者がことごとく落選。トランプ前大統領が支持表明した候補者は、予備選で勝てて本選で戦えないケースがほとんどであることが明らかになった。