2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年12月13日

カタールには中東最大規模の米軍基地がある(DVIDS)

 中東で史上初めてのワールドカップがカタールで開催されているが、同時に、カタールの人権問題も注目を集め、西側の非難の対象となっている。西側メディアは連日、外国人労働者に対する過酷な扱いやLGBTが禁止されていることで、カタール批判を続けている。ワールドカップのための大規模なインフラ工事や競技開催のための冷房は、脱炭素化に反するという批判もある。

 ワシントンポスト紙のジョン・ハドソン記者は、11月22日付の解説記事‘At Qatar’s World Cup, Biden’s envoy balances firmness and flattery’で、次のように論じている。

 バイデン政権にとり、カタールは、中東の新たに重要なパートナーとなっている。2021年の混乱した米軍のアフガニスタンからの撤退においては、数千人の米軍が駐留しているカタールのアル・オディド空軍基地が司令塔となった。

 カタールは、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアを外交的に孤立させ、欧州の天然ガス不足問題も助けている。

 これに対し、伝統的なパートナーであるサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イスラエルがロシアのウクライナ侵攻で米国に協力的でない。サウジアラビアは、米中間選挙の数週間前に原油生産の削減を発表して米国政府関係者を怒らせた。イスラエルは、トランプ前大統領が廃止したパレスチナの東エルサレムにあった総領事館を再開しようとするバイデン政権の要請をおおっぴらに拒否した。そして、右派のネタニヤフ元首相の首相復帰は、さらに米国・イスラエル関係を困難なものにしよう。そしてUAEは近年、米国の政治に干渉しようとしているとして米国の諜報コミュニティーを心配させている。これらの国々に比べればカタールの揺るがない米国の国益への支持は明確な違いとなっている。

 とはいえ、LGBTの禁止、外国人労働者への過酷な扱いなど、カタールの人権問題について米国は何らかの働きかけをするべきである。選手も観客もFIFAとカタール政府に対して深刻な労働災害に遭った労働者に対する補償基金を設立するよう求めるべきである。

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 カタールでの外国人労働者に対する過酷な扱いの問題は、欧州では、以前からBBCなどが積極的に取り上げてきたし、カタールの人権問題を理由にワールドカップへの参加や中継ボイコットするという話は、開催前からしばしば欧州から聞こえて来た。しかし、実際にボイコットしたチームは一つもないし、大手TV局で中継をボイコットしたところも一つもない。結局、皆、ワールドカップが好きなのである。


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