富田 パーキンソン病という脳の病気がありますが、この病気の原因が腸にあるということが最新の研究で徐々に分かりつつあります。腸の動きを指示している「迷走神経」が脳から腸までつながっているのですが、どうも腸内細菌が迷走神経に悪さをして、腸の神経がおかしくなり、徐々に脳に影響を与えているようなのです。
加藤 腸は単なる消化器官ではないということですね。
合田 これはエコシステム(生態系)です。ヒトはヒトの細胞だけで生きているわけではない。ヒトの細胞の数よりも腸内細菌の方が多いわけですから。
新藏 今までの医学や薬学は人間の体しか研究しませんでしたが、実際にはヒトは腸内細菌や皮膚の微生物などと相互作用して生きていることを考えないといけません。
科学は本来、長期戦
リテラシーの底上げは必至
加藤 人間のメカニズムも、実は分かっていないことの方が圧倒的に多いですよね。
富田 私の分野だと、麻酔がかかる仕組みも、昔の記憶がどこに保存されているかも、あまり分かっていません。
瀧口 フロンティアはまだまだ残っているのですね。
合田 こうした研究は何十年というタイムスパンで考えないといけません。ただ、国の予算が近視眼的になってしまっています。新型コロナワクチンのメッセンジャーRNA(mRNA)の技術も、ここ2年で開発されたものではありません。そこを考えて予算を付けてもらわないと、研究者は育ちませんし、知見は引き継がれません。
富田 コロナワクチンの際もそうでしたが、日本は科学に対するリテラシーが低いのではと思っています。基礎的な科学の研究者がいて、彼らの発見に基づいてわれわれは文明をつくっている、というプロセスに対する理解が足りていないのかなと。その原因は教育だけでなく、研究者側からの発信が足りない点もあるかもしれません。
新藏 可能性を追究するのが科学です。その時点に本当だと思うことを発表し、他の研究者が検証し、「いや、そうではなくて、こうだろう」と議論し、間違いを正しながら進んでいくのが科学のあるべき姿ではないかと思います。日本人は科学に対する信頼が欧米に比べてとても低いですよね。コロナ禍の際の統計で、欧米では最も信頼する情報源は「科学者の意見」でしたが、日本は「マスコミ」でした。
加藤 科学の発展には、科学者だけではなく、例えばマスメディアやジャーナリズム、投資家の科学リテラシーの底上げも重要になってきますね。
メタバース、自律型ロボット──。世界では次々と新しいテクノロジーが誕生している。日本でも既存技術を有効活用し、GAFAなどに対抗すべく、世界で主導権を握ろうとする動きもある。意外に思えるかもしれないが、かつて日本で隆盛したSF小説や漫画にヒントが隠れていたりもする。テクノロジーの新潮流が見えてきた中で、人類はこの変革のチャンスをどのように生かしていくべきか考える。
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