ビジネスでも新たな動き
さて、実はこうした「転生願望」が表れているのは、本作のような漫画ジャンルのみに留まらない。2022年、設立わずか数年のスタートアップ企業が、ド派手な業績で株式公開を果た。その名をANYCOLOR(エニーカラー)という。同社は「Vtuber」というジャンルでPMF(プロダクトマーケットフィット=商品やサービスが市場ニーズにマッチした状態)を果たし、急成長を実現した。
現実社会とは違う、もう一つのバーチャル世界でのサービスを提供しており、広義でのメタバース企業ということができる。これらも、まさに現代の若者の深層心理を捉えており、現実世界が生きづらい分、バーチャルの中のほうが楽しみやすいということなのだ。
実はこうした世界観は、映画分野では『マトリックス』(ワーナー・ブラザーズ)が1999年に示しており、その革新性をベースに世界的なヒット作品になることができた。
本作でも、「囚われの籠の中で、何も知らずに刹那的な幸せを生きるのか? それとも目を醒まし真実に向き合い、苦しい現実の中でも希望を持って生き抜くのか?」というのが大きなテーマ性になっている。
インターネットにスマートフォン、安価な高速Wi-Fiに各種デジタルサービスが普及して、バーチャルという「逃げ場」が作られた現在、現実はそこそこにして、刹那的な楽しみにふけることができる時代になったといえるだろう。
価値観は人それぞれであり、生き方に正しいも間違いもないが、だからこそ「その上でどう生きるのか」というのを問われるのが、これからの世界といえる。選択肢が増え、「あるべき生き方」を押し付けられなくなった現代人は、今後どのような方向に進んでいくのだろうか。
実はこの異世界転生という分野、閉塞感の強い日本だからこそのヒットジャンルというわけではなく、中国でも翻訳版が大ヒットしている。一党独裁の監視社会で閉塞感を感じているからこそ、転生したい願望が強いようだ。
これらを見ても、バーチャル比率が高まった中でどう生き抜いていくのかが、世界各国の共通テーマとなっていくことだろう。