効果が期待されない3つの提案
医療部会では、11月28日に開かれた第93回会合で厚労省の骨格案は既に示されていた。それを第95回会合で了承したわけだが、新しい提案と言えるのは3つだ。
ひとつは「かかりつけ医機能の定義を法定化」と謳ったこと。具体的には医療法の中でかかりつけ医機能の定義を明文化することにした。
これまでは、かかりつけ医の機能として、「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談を行う」と同法の施行規則(省令)にあるだけだった。あいまいな表現で具体的な基準はない。制度ではなく言いっ放しだ。これを法律に盛り込んで格上げすることにした。
多くのメディアは「法律に役割明記」「役割定義を明確化」と前向きに評価して報じた。しかし、診療と相談という抽象的な表現に過ぎない。医療側がとるべき具体的な責任や責務規定はない。これでは現場は変わらないだろう。
2つ目は、患者と医療機関の関係を確認できる「書面交付と説明」を新たに加えた。だがよく読むと条件がある。
対象者とは、「医師が継続的な医学管理が必要と判断した患者」としており、生活習慣病など慢性疾患を持つ高齢者が想定される。「必要と判断」するのは医師であり、医師の自主性に委ねられる。
急性期の患者や元気な住民は対象外となりそうだ。その上、患者が「希望する場合」に限られる。患者が希望したうえで、医師の判断で決まる「上から目線」の仕組みとなる。
どんな住民でも、希望すれば一律に医療機関と契約を交わすことができる欧米の家庭医とは大違いだ。
もう一つは、かかりつけ医としての複数の機能を情報公開することにした。
複数の機能とは、①日常的な病気やケガへの対応法、②入退院時の支援の有無や方法、③休日・夜間の体制、④在宅医療の仕組み、⑤介護サービスとの連携方法、⑥かかりつけ医に関する研修の受講――である。
これらの内容を都道府県に報告し、都道府県は現在運営している「医療機能情報提供制度」に反映させて、ウェブサイトで公開するという。
現在でも同制度に従って各都道府県が独自にウェブ発信している。だが、「医療機関の選択に役立ったという患者の声を聞いたことがない」と医療関係者は異口同音に話す。医療側からの一方通行で、利用者目線とは言い難いからだ。ここに新しい情報を加えるなら、もっと分かり易いシステムに改善すべきだろう。
以上の3項目は枝葉の話だ。根幹となる認定制と登録性が見送られ、かかりつけ医制度化への道は遠のいた。
内閣官房と厚労省との攻防
かかりつけ医問題は、国の全世代型社会保障構築会議(委員17人、座長・清家篤日本赤十字社社長)でも検討されてきた。同会議は、社会保障全般について長期構想を議論する場として21年11月に内閣官房の下で発足した。
22年12月16日の第12回会合で社会保障改革に関する報告書をまとめ岸田文雄首相に提出した。主に少子化対策の強化を主張したが、かかりつけ医については、認定制も登録制も言及がなかった。
報告書には「かかりつけ医機能の活用については、医療機関、患者それぞれの手上げ方式、即ち、患者がかかりつけ医機能を担う医療機関を選択できる方式とすることが考えられる」とある。
強調したのは「手上げ方式」である。患者と医療機関のそれぞれ希望者が「手を上げ」て、患者が医療機関を選択する、ということだ。医療部会の骨格案にある「慢性期の患者への医療機関からの書面交付」とは大きく異なる。対象者を限定していないし選択するのは患者側としている。制度化を推し進めやすいことは明らかだ。