2023年1月30日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年1月11日

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 2022年12月8日付ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)で、同紙コラムニストのサダナン・デュームが、「インドは中国の製造業の苦境を利用できるか?」との論説を掲げ、米中対立激化やゼロコロナ政策などの中国の諸問題が製造拠点のインドへの移転に追い風になっているが、その成功いかんはインド自身の政策によるところが大きいと論じている。

 米アップルは最近、南インドでのiPhone14の製造を発表した。

 アップルの発表はインド経済の明るい見通し公表の最中に行われた。JPモルガンは 2025年までにiPhone のインドでの生産は現在の5%から25%になると試算した。モルガンスタンレーは 2027年までにはインド経済が世界第3位になり、2031年までに国内総生産(GDP)中の製造業の割合は現在の15.6%から21%に上昇し、インドの輸出が倍増すると予想している。

 世界情勢も追い風である。米国との対立が激化し、ゼロコロナ政策、政府の過度な経済介入などの中国の失敗による世界的供給網再構築でインドは利益を得ることが可能だ。人口で中国を超えるインドは潜在的な大市場だ。西側とアジア同盟国はインドと良い関係にあり、米国がインドとのビジネスを難しくする政策を導入するリスクは低い。

 一方、インドが正しい舵取りをするかは不明である。インドの製造業戦略は高関税と補助金からなる。今後5年で政府は半導体、自動車など14分野で目標達成企業に2兆ルピア(243 億ドル)を出す予定で、これが5年で30兆ルピア(3650億ドル)の経済効果と600万人の新規雇用を生むと試算されている。

 しかし、懐疑的な理由もある。インドのRCEP(地域的な包括的経済連携協定)からの離脱やインド経済の構造的問題である。多額の補助金は汚職を生むし、労働力の熟練不足、社会主義時代の労働法規、劣悪なインフラ、非効率な政府などの問題もある。

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 2022年9月にアップルが最新のiPhone14の生産をインドで始めると発表したことを端緒に、インドが中国に代わり世界の工場になれるかを論じたのが上記の記事だ。同日に米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ(FA)」が「なぜインドは中国に取って代われないのか」との同趣旨の記事を掲載した。

 まず、中国が直面する厳しい状況(米中対立激化、ゼロコロナ政策、政府の経済介入)で実際に世界の供給網の再構築が起こっている。9月にアップルが iPhone14の世界生産の5~10%をインドで生産すると発表したのに加え、11月にはアップル下請の富士康科技集団(フォックスコン、鴻海<ホンハイ>精密工業傘下)が、2000億ドルをかけ現地企業と共同で半導体生産工場をインドに建設すると発表した。インド経済の見通しも明るいものが多く、モルガンスタンレーは、今後10年間の世界経済成長の5分の1はインドによると予測している。

 FAは、インドは、①構造的優位性、②潜在的ライバルの失速、③政府の投資優遇措置で有利な地位に立つと指摘する。中国を抜く人口、民主主義や法の支配の伝統、若く有能で英語ができる労働者の存在などは、構造的優位性だ。WSJの論説が指摘する劣悪なインフラについても、FAは、ここ数年で劇的に改善され、デジタルインフラなど、一部では米国を凌駕するところもあると評価する。


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