問題の焦点、地域の低所得か所得格差か
図6では、地域の年収300万円未満の世帯の比率と申請率に強い正の相関がみられなかった。このことから、平均的な申請率を超える地域は生活保護の申請の意向が「特殊」であるといえるのであろうか。図7は、全国の平均所得と年収300万円以下の世帯の割合の関係を図示したものある。
平均所得が高ければ、大きな傾向として年収300万円未満の世帯の比率は低くなることは納得できるであろう。実際に図7を見ると、右下がりの傾向が確認できる。しかし、図7の点線で示される回帰直線の上側に位置し、地域名が記入されている地域に注目したい。
これらの地域は、地域の平均世帯所得から統計的に推定される300万円未満の世帯の比率が全国の傾向よりもやや高い地域ことを示す。すなわち、地域内の「格差」が大きいことがにじみ出ていることを意味する。これらの地域には、図2(保護率)と図6(申請率)で全国平均値より高いことが重なって指摘された北海道、東京都、大阪府、福岡県、沖縄県のうち、北海道以外がすべて含まれ、また図2で全国の平均保護率を超える地域のうち、青森県、東京都、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、徳島県、高知県、福岡県、長崎県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県と多くが含まれている。
生活保護を地域別にみると、単に所得が低いか否かという観点だけではなく、その地域の中での所得の「格差」の存在が一定程度影響していることが見えてくる。低所得により地域内でも生活環境が悪くなっている人たちで生活保護の申請が高まり、行政も地域的な偏りなく審査に基づき支給に至っていることがわかる。
これは、生活保護というセーフティーネットが少なくとも都道府県間で格差のある運用があるわけではないと言えるだろう。これからは、地域ごとに生活保護申請に至るその前の「当初の所得格差」をなくす施策を期待したい。