ハントフォワード作戦を断った自衛隊
自衛隊の継戦能力に疑いを持った米軍は、自衛隊の脆弱性を洗い出そうと自衛隊に対して「ハントフォワード作戦(Hunt Forward Operation)」の実施を申し入れた。
「ハントフォワード作戦(HFO)」とは、米サイバー軍(USCYBERCOM)と第16空軍(US Air Forces Cyber)に所属するサイバー防衛要員をウクライナや同盟国に派遣し、重要なインフラシステムの脆弱性をあぶり出したり、その防御方法を教える行為(オペレーション)をいう。ウクライナが爆破など物理的な電源消失以外のサイバー攻撃による電源消失などの被害を出していないのも、このハントフォワード作戦を実施していたからである。米軍は、ウクライナをはじめクロアチア、エストニア、リトアニア、モンテネグロ、北マケドニアなど18年から22年にかけて20カ国以上の国々で作戦を実施している。
米軍のハントフォワード作戦を一緒にやろうとの申し出に対して自衛隊は、丁重に断ったそうだ。ハントフォワード作戦は自衛隊のネットワークだけでなく、民間の電力や水道といった重要インフラに対しても行われるため、日本で行うにはさまざまな法的問題が存在し、実行が不可能だとの判断があったためだと好意的に推測するが、本当のところはわからない。
自力でハントフォワードを行える能力を身につけろ
法改正なくしてハントフォワード作戦も行えないのがわが国の現状である。大量の通信接続要求を相手のコンピュータに浴びせかけるDDoS攻撃を行えば電子計算機損壊等業務妨害罪が問われるし、IDやパスワードが万一盗取できたとしても不正アクセス禁止法に問われる。スマートフォンを盗聴すると通信の秘密を犯すことになる。
これらの行為は、安全保障や防衛を担う自衛隊に対しては、正当業務行為を認め、違法性が阻却されるとの解釈を閣議決定すべきだ。法律の解釈を変更して自衛隊が自らハントフォワード作戦を実施できるようにし、重要インフラや基地の継戦能力を高めると同時に、サイバー・インテリジェンス能力を身に着ける努力を一刻も早くなさなければ、有事に間に合わない。
安全保障といえば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。日本人の歪んだ「安全保障観」を、今、見つめ直すべきだ。
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