日本が一方的に影響力を増大させようとしていると見られれば、東南アジアの国々の警戒によって抵抗されることになろう。東京は、日本の役割拡大に対する彼らの支持を確実なものにしなければならない。これらの国々は、地域の力の均衡を変えることはできないが、地域において外交的お墨付きを与えてくれるという点で重要である。
この点、東京は、北京に学ぶことができよう。中国外交は、東南アジア各国の支持を得るため、過去10年の「微笑外交」に、莫大な力を注いだ。北京は、自らが主張している平和的台頭への信頼を高めるために、多国間および二国間の行動を組み合わせ、融資、援助、投資のような経済的誘因と組み合わせた。
日本は、既に、地域における主要な投資国、援助供与国であるが、経済外交に取りつかれた中国のような国に比べると、遥かに少ない名声と称賛しか得ていない。再び地域のリーダーたらんとする日本の願望の証として、経済活動と気前のよい援助をはっきりと結びつけることは、役に立つであろう。
東京は、中国の台頭に対する懸念の高まりが、自動的に、日本の役割強化への支持につながるわけではないことを認識する必要がある。多くの国々は、20世紀の日本による支配の残忍な歴史をまだ覚えている。小野寺氏のシャングリラでの表明は、正しい方向への小さな第一歩だが、安倍総理の、最近の、論争を呼ぶような、日本の戦時中の歴史についての発言は、東京の主張を甚く傷つけている。
日本は、数十年にわたって、その戦略的重要性に相応しくない地位に甘んじてきた。おそらく、安倍政権の野心は、その沈滞感から抜け出すということなのだろう。より明白な希望は、日本が、それを建設的かつ謙虚に実現できる、ということである、と論じています。
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ジョン・リーは、これまでも、アジア太平洋の安全保障問題について、バランスのとれた論説を多く発表してきており、今年のシャングリラ対話にはオーストラリア代表団の一員として参加した人物です。色々と注文を付けてはいますが、地域における日本の軍事的役割の拡大を基本的に歓迎する論説です。アベノミクスをしっかり成功させて国防予算を確保できるようにし、日本の影響力拡大を日米同盟強化の文脈の中に位置づけるべし、という指摘は正鵠を射ていると思います。
論説は、東南アジアへの影響力について、日中を対比させて、中国を見習うべしと言っていますが、これには若干の誤解があるでしょう。日本にとって、東南アジアは、戦後半世紀以上にわたる金城湯池であり、歴史的重みが中国の比ではありません。援助の質も、中国の粗野なやり方とは違います。ただ、日本が、論説の言うように、それにふさわしい評価を得られていないとすれば、最近の日本の経済停滞、そして、むしろ、戦後一貫して経済偏重で軍事的に無力な日本のパシフィスト的態度がより大きな原因でしょう。日本が地域の平和と安定に、軍事的なものも含めて、貢献を深めていくにしたがって、東南アジアにおけるプレゼンスは強まることになると思われます。
歴史認識問題については、東南アジアの国々はほとんど問題視していませんが、それを日本から言い出すと、欧米のマスコミなどにも大きく取り上げられることになるので、わざわざ論争が起こるようなことをするのは避けるべきでしょう。
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