2024年4月20日(土)

インドから見た世界のリアル

2023年2月14日

真の狙いは中国対策

 ただ、この「ダルマ・ガーディアン」は、単に対テロ、反乱演習とは言えない側面がある。それは、少なくともインド側の態度からみてとれる。例えば、初めて「ダルマ・ガーディアン」が行われた18年、インド側が用意した講演者が、インド第17軍団長だったことだ。

 第17軍団は、対テロ、反乱を担当する部隊ではない。第17軍団は、新しい部隊で、9万人規模、中国が侵略してきた際には、大型輸送機やヘリコプターで移動し、チベットや新疆ウイグル自治区へ反撃に出る、空中機動軍団とも呼ばれる部隊である。歩兵だけでなく、大砲などの重火器も皆、輸送機やヘリコプターで運ぶ。そのための超軽量火砲M777と、その誘導砲弾を米国から購入している部隊だ。

 M777は、米国がウクライナに援助した最新武器として、日本でもニュースになったこともある火砲だ。命中率がとても高い。

 つまり、国家を相手にする部隊で、対テロ・反乱部隊ではない。だから、日印共同訓練の目的が対テロだけならば、第17軍団長が講演者というのは意味不明である。対中国のための共同訓練を兼ねたものとみていい。

 そもそも対テロや災害救援、という演題は、使いやすいものである。対テロとか災害救援といえば、他の国々が怖がらない、というより中国を刺激しないからだ。実際に、インドには、中国を刺激するべきではない論理的理由がある。インドは日米豪印による枠組み「QUAD(クアッド)」の中では唯一、実際に中国の襲撃を受け、戦わざるをえなくなり、死傷者を出しているからだ。

 その背景には、QUADでは、インドが最も中国のターゲットになりやすい事情がある。QUADの中では、日米豪は、中国と陸上で接してはいない。攻撃する場合も海を越えた先にいて、遠いのである。一方、インドは陸上でつながっているから、攻撃しやすい。

 さらに、日米豪は、条約で結ばれた正式な同盟国だ。インドは違う。中国がQUADを1カ国ずつ切り崩して離間させたければ、最初のターゲットはインドである。インドで攻撃して、事件を起こし、インドに迫る。「QUADはインドを助けに来ない。損だぞ。QUADなんて、やめてしまえ」と、いうわけである。

 このような環境の中で、インドの取るべき道ははっきりしている。「QUADは軍事同盟ではない」と言いながら、実際には、QUAD各国と防衛協力するのである。日印共同演習が、QUADではなく2国間で行われているのも、対テロを名目としながら実際に共同演習を実施するのも、そういった考えが背景にある。本音と建て前である。

拡大するQUADの「戦場」

 ただ、今回の日印共同演習を含め、QUAD各国が行っている共同演習をみると、QUADの担当分野が広がっていることがわかる。QUADはもともと、海洋における安全保障協力を中心に議論されてきた。だから、日印の共同演習も、海上自衛隊とインド海軍の演習が最初である。しかし、中国の方は、海洋だけに進出しているわけではない。

 印中国境における中国による侵入事件数と、これを中国公船による尖閣周辺の接続水域への侵入事件と比較すると、図1のようになる。つまり、両方とも、12年に侵入事件数が増加し、その後、横ばい、19年に再び増加しているのだ。中国は、何らかの事情で、日本とインドの両方に対して侵入事件をエスカレートさせているのである。

(出所)インドメディアの資料、海上保安庁の発表資料から筆者作成 写真を拡大

 だから、中国対策をめぐって協力するならば、日本とインドは、そして米国も、陸海空全体で、総合的に対応しなければならない。だから、昔は海洋中心だった米印共同演習も、最近は印中国境で行うのが増えているのだ。


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