130兆円の民間投資は可能か
表-1が示している投資分野には、需要側での投資も含まれているが、製造分野、あるいは電力分野での投資が主体になると思われる。法人企業統計によると、21年度民間企業の設備投資額は45兆6600億円。GX投資に大きく関係すると思われる製造業と電力産業の設備投資額はそれぞれ14兆3600億円、2兆6900億円だ。
製造業の減価償却費と投資額の推移を図-1に示した。製造業の投資額が減価償却費を上回るようになったものの、その差はあまり大きくなく、減価償却費を大きく超えての投資は難しい。
GX投資には研究開発投資も関係するが、総務省の科学技術研究調査によると21年度の全産業の研究費は、14兆2200億円。製造業が大半の12兆2100億円を占めている。電気・ガス・熱供給・水道は465億円だ。
表-1の分野への投資を行うことは可能だろうか。製造業での投資が主体になると考えられる鉄鋼などエネルギー多消費産業と自動車産業の減価償却費、研究開発費との比較を表-2に示した。ものづくり白書によると、20年の設備投資の目的は、老朽設備の更新・補強が68.7%、生産設備の更新が54.4%、生産能力の拡大が48.9%だが、脱炭素関連は2.0%しかない。
日本企業に、新たに巨額の投資を行う力はあるのだろうか。数字を見る限り、民間企業が投資の多くを脱炭素に振り向けながら生産を維持することは難しいように思う。
政府は、先行する20兆円の投資分野をもっと絞り集中すべきだ。全ての分野で欧米諸国に対し競争優位を確保するには、民間投資に依存するとしても資金が足らない。1995年に世界の国内総生産額の18%を占めていた日本経済のシェアは、4%まで落ち、米国の6分の1、EUの4分の1の経済規模になった(図-2)。
GX投資により経済成長と給与増を実現することも簡単ではないし、ひょっとすると13年前の成長戦略と同じ道を辿る懸念もある。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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