巨額の資金を投じる欧米
米国では昨年8月にインフレ抑制法が成立した。その中に脱炭素支援として約3600 億ドルが織り込まれた。47兆円にもなる米国政府のグリーン投資支援は、再エネ、原子力発電導入、脱炭素関連設備に対する投資・生産税額控除(投資額の一部あるいは生産量に応じた額が、税から還付される制度)と補助金が主体だ。
制度の中には米国製であれば有利になる税額控除、補助金も設定されている。例えば、電気自動車購入時には最大7500ドル(約100万円)の税額控除が受けられるが、車両の最終組み立てが北米で行われていることが税額控除の対象車両の条件だ。また、国産化率を満たせば税額控除額が増額される仕組みもある。
インフレ抑制法に織り込まれた「バイアメリカン」による欧州企業の米国への移転を恐れた欧州委員会(EC)は、昨年12月に対抗策「排出ゼロ時代へのグリーンディール産業計画」を発表し、具体案を2月1日に明らかにした。加盟各国の補助金の投入を容易にするルールの緩和、米国と同様の税額控除・加速償却制度の導入、欧州連合(EU)レベルでの新たな資金「EU主権基金」の準備、人材開発、貿易の促進が織り込まれている。
さらに、蓄電池、風力設備、ヒートポンプ、太陽光設備、水電解装置、炭素貯留の技術に関する30年までの生産能力を定め、許認可の過程を簡略化する「ネットゼロ産業法案」も提案されている。
ドイツはEUレベルでのEU主権基金の創出に反対し、まだ全てが使用されていないEUのコロナ禍からの回復援助資金、8000億ユーロ(約110兆円)の残りをまず使用すべきと主張している。2月1日のECの具体案は、回復資金から脱炭素援助に2500億ユーロ(35兆円)、公正な移行資金などから1000億ユーロ(14兆円)などEUレベルで利用可能な資金に触れながら、「EU主権基金」も必要としている。
中東欧の加盟国は、補助金を用意できない資金がない国にはEUの援助が必要と主張している。各国政府の補助金支出額をみると、経済力のある国が上位に並んでいる。ドイツを筆頭に資金に余裕のある加盟国は、22年だけで脱炭素の補助金として510億ユーロ(約7兆円)の予算を当てている。資金のある加盟国だけが補助金を出すのであれば、EU内で競争力格差が拡大する懸念がある。
2月8、9日に開催されたEU首脳会議では、EUレベルで競争力と生産性を強化するECのグリーンディール産業計画への支持はあったものの、3月下旬の首脳会議で再度議論される予定となった。それまでにECはさらに詳細な提案を行うものとみられている。EU主権基金も認められるのではないだろうか。
欧米では政府あるいはEUレベルでの資金による援助が行われるが、日本のGX投資、150兆円は、すべて民間企業が負担する設計になっている。欧米との比較では援助額が少ないように思える。何より、民間企業は10年間で炭素価格相当の20兆円を除く130兆円の投資を行えるのだろうか。