2024年5月6日(月)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2023年3月5日

進むナッジの活用

ナッジの社会実装に向けて、大阪大学と大阪府は連携協定を結んだ(2022年12月)。写真は、記者会見で質疑応答する大竹先生(左)。右端が佐々木先生。

佐々木先生 ナッジのように、介入を提案して人々の行動変容を促していく、という形式での実践は、比較的最近の動きなのでしょうか?

大竹先生 税や社会保障の分野で、最適な制度設計のために行動経済学の活用を検討する動きは早くからありました。人間の好みが時間を通じて変わったときに、どの時点の好みを優先して介入するのかなど、現在のナッジ活用の基盤となるような議論が重ねられていました。

 一方、日本でナッジが活用され始めたのは、17年にリチャード・セイラーがノーベル経済学賞を受賞して以降じゃないでしょうか。

佐々木先生 この連載の実践編・第7回(『CO2の排出量を減らすには?』)で環境省の方にインタビューしましたが、政策現場にナッジの活用ニーズがあり、それに研究者が協力する形で、17年頃から急速に広まっていったと認識しています。

 大竹先生は、12年から18年にかけて、経済学教養番組の『オイコノミア』(NHK)に出演されていましたが、そこでも「ナッジ」という言葉はあまり出てこなかったように記憶しています。

大竹先生 そうですね。行動経済学を取り上げるときにも、ナッジのような介入ではなく、人間の意思決定のクセに着目して解説することのほうが多かったと思います。

 そう考えると、最近はずいぶん様相が変わりました。佐々木先生が22年に出演された『1ミリ革命』(NHK。実践編・第3回『投票率を上げるには?』参照)もそうですが、私が出演するものにもナッジや行動変容をテーマにした番組が増えました。

佐々木先生 世界的にはナッジの政策活用は10年頃から本格化しているので、日本は後続ですが、導入後の動きはスピーディーです。

大竹先生 元々、ナッジのようなソフトな施策の活用を受け入れる土壌が政策実務の現場にあったことも大きいと思います。先ほども話したように、労働法の分野では、努力義務やモデル就業規則などソフトな規制を工夫して雇用主に働きかけることは一般的でした。

佐々木先生 法人に対して適用されていたソフトな介入の対象に現在は個人も含まれるようになり、市区町村など政策現場の最前線で表現(フレーミング)を工夫するナッジなどの活用が盛んになっている、と解釈できるのかもしれませんね。

ひとくちメモ①「行動ファイナンス」
投資家の一見不合理な意思決定に着目し、金融市場の動向を分析する学問領域。
ひとくちメモ②「努力義務」
「~するよう努めなければならない」など、法律の条文で規定された内容のこと。法的拘束力や罰則がないため、どの程度対応するかは裁量に委ねられている。

   
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