2024年12月23日(月)

近現代史ブックレビュー

2023年3月19日

 近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載「近現代史ブックレビュー」はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。

 幕末維新史をはじめ明治史は国民に比較的親しまれているが、では専門の研究者の世界はどうなっているのか。一般にはそれほど知られていないこの疑問に答えてくれるのが本書である。

『明治史研究の最前線』小林和幸 筑摩書房 1760円(税込)

 維新史(久住真也)、政府機構(西川誠)、思想史(真辺将之)、帝国議会史(小林和幸)、外交史(千葉功)、経済史(鈴木淳)、宗教史(山口輝臣)に分かれており、他に24の多彩なコラムがあり、一般の読者にも面白く読める内容となっている。

 戦後学会の主流だった天皇制絶対主義論などの経済決定的史観が優位性を失った後の新しい研究の流れが的確にまとめられているのである。

 その中から、ここでは司馬遼太郎の著作などによって親しまれている幕末維新史について見ておこう。

 一般の人々が抱くイメージとは相当に異なっているという指摘から始まっている。まず、天皇について、藤田覚『幕末の天皇』(講談社)などにより「武家に操られる天皇という古いイメージ」は一新され、それとともに台頭したのが、「一会桑」勢力への着目である(家近良樹)。「一会桑」とは一橋慶喜・会津藩・桑名藩のことで、彼らは朝廷と深く結び付き、時に幕閣とも対立しつつ独自に幕府権力の強化を図っており、とくに「敗者」としてのみ捉えられがちな「会津藩の評価を大きく変えた」のだった。


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