2024年7月16日(火)

教養としての中東情勢

2023年3月13日

 同時に、サッカーW杯を控えていたカタールと関係を修復、罵り合っていたトルコのエルドアン大統領とも関係を改善した。皇太子がイランとの対立緩和に踏み切ったのは優先課題である国内改革「ビジョン2030」に集中しなければならない事情もある。イランの脅威を軽減しておく必要があったのだ。

イランは経済復活と「包囲網の切り崩し」

 対してイランにもサウジとの和解を促進した理由がある。イランは米国の制裁で経済は低迷、制裁をかいくぐって中国への石油売却を増やすことで辛うじて経済を維持しているのが現状だ。イラン核合意の再建協議は米国との折り合いがつかず、合意に復帰して制裁を解除するのは今や絶望的な状況だ。

 加えてウクライナ戦争では、ロシアにドローンや弾薬を供与し、欧米からの反発を招いて経済的には一段と追い込まれている。さらに宿敵のイスラエルがUAEなどと国交を樹立して「イラン包囲網」の強化を図っている現実もある。こうした状況を踏まえ、サウジとの和解が経済の復興と「包囲網の切り崩し」という2つの面で利益になると判断したようだ。

 イランは国内的にも大きな問題に直面している。反ヒジャブ運動が鎮静化しないことだ。最高指導者ハメネイ師が恐れているのは、女性のヒジャブ(スカーフ)廃止要求が次第に反政府行動に発展していることだろう。サウジとの和解で経済状況が少しでも好転すれば、国民の不満解消にもつながると期待しているのは間違いない。

周到に準備進めた中国

 中国は今回の仲介成功で、経済だけではなく、米国に匹敵する「政治大国」としても力を誇示できたと考えているだろう。中国の最優先事項の一つはエネルギー資源の確保であり、「輸入原油の40%を依存するペルシャ湾や中東で存在感を示すことをずっと狙ってきた」(アナリスト)。

 この目標に向け、いがみ合ってきたサウジとイランという石油大国同士を和解させるという劇的なシナリオを描き、周到な準備を進めた。米国が中国対応に集中するため軍事プレゼンスをアジアにシフトさせて、中東地域に〝空白〟が生まれているスキもついた。米国がイランとはパイプがなく、またサウジのムハンマド皇太子とバイデン大統領の関係が冷え切っているという中国にとっては有利な状況もあった。

 昨年12月、中国の習近平国家主席がサウジを訪問し、戦略的パートナーシップ協定に調印した。今年2月には、イランのライシ大統領が中国を訪問し、戦略協力協定に署名した。

 2つの訪問時にサウジとイランの和解の根回しが行われたのは確実だ。中国の仲介の〝武器〟は「内政不干渉」。民主主義を持ち出すバイデン大統領とは違って、専制的な手法も容認するというシグナルだ。


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