2024年4月20日(土)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年3月24日

 シンガポールでは、レストランでの食事の注文もQRコードで行う。店に入る前に「QRコードで注文してください」との主旨の説明を受け、戸惑っていると「日本人ですか?」と聞かれた。

 日本でもQRコードで注文する店が増えているとは言え、QRコードでの注文に戸惑うのはどうも日本人の特徴のようだ。

 シンガポールでは、日本の民間企業が開発したこのQRコードが普及している。実はこのデジタル化とQRコードが農産物輸出促進と密接に結びついている。

 農産物や食品のパッケージにQRコードが貼付されていて、どこでどのように栽培されたか、つまりトレーサビリティを示すのに使っている。シンガポールの消費者は購入の際にこうした情報を参考にしており、QRコードを付けた日本産の米などが人気を博すケースもある。

 兵庫県JAたじまのコウノトリ育むお米もその一つ。米袋に貼ってあるQRコードをスマホでかざすと、英文のホームページが表示され、このお米が無農薬であり、コウノトリと共生して栽培されていることを説明してくれる。

 「日本の農産物は安全と考えられているが、それを数字などでしっかり説明するとなお良いです」とシンガポール人スタッフが指摘する。

心もとない国内の農業事情

 シンガポールの現状で見るように、日本農業は追い風が来ていると言える。しかし、日本国内は、生産者の高齢化で急速に後継者が減っている。「安全安心で高品質な農産物」を持続的に生産できる体制が出来ていない。

 これからは、生産者をはじめ、農業関係者は国内で縮小するパイを取り合うのをやめた方がいい。コロナ禍であっても海外事情についての情報は、SNSやマスメディアで溢れているものの、3年ぶりのシンガポール訪問で新たに知った事実は多く、「百聞は一見に如かず」と改めて強く感じた。

 海外の販売現場に行くと都道府県職員やJA職員など農業関係者とよく出くわす。しかし、そこに生産者の姿はあまり見かけない。販売現場では、現地の人たちが農作物や加工品について質問をすることも多く、そうした場で生産者自らが魅力や思いを伝えられれば、購入してもらえる可能性が高くなる。消費者の声を聞くことにより今後の生産や販売戦略、商品開発に生かすこともできる。

 輸出先の各国へ訪問することはこうしたメリットがあるのだが、現状は生産者ではない農業関係者が足を運ぶことが多くなってしまっている。今後はこのような農業関係者だけでなく、生産者自ら海外の消費現場などを訪問し、海外の状況を自ら見聞すべきと思う。

 生産者が、日本の農産物が海外で、どのように評価されているか知って欲しい。そして、日本の農産物を客観視した上で、いよいよ海外で勝負する時期が来ていると考えるべきではないだろうか。

 
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 便利で安価な暮らしを求め続ける日本――。これは農業も例外ではない。大量生産・大量消費モデルに支えられ、食べ物はまるで工業製品と化した。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人を〝食べ支える〟ことは困難になる。しかし、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人は、企業は、確かに存在する。日本の農業をさらに発展させるためには、農業の「多様性」が必要だ。

   
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