農林水産省の22年の農林水産物・食品の輸出額のまとめでも、シンガポール向けが前年比153億円増加。牛乳・乳製品や牛肉が増えている。シンガポールを含めた輸出全体を見ると、野菜・果実類が20.6%増の687億200万円、菓子(米菓を除く)が14.6%増の279億9100万円、米が24.4%増の73億8200万円となっている。
これに対し、筆者が宿泊したホテルのテレビは韓国製。家電専門店に入っても、日本の電気製品は見当たらない。日本はデジタル化が遅れ、家電製品も一時の勢いを失ったように見える。
「ジャパンブランド」を代表するものはかつての家電製品から変わりつつある。これからはアニメなどのポップカルチャーとともに、日本は、食品や農産物で勝負する時代なのかもしれない。
追い風となる〝急激な円安〟
日系スーパーでは日本産のコシヒカリが1キログラム1000円程度で売られていた。同類の米は、日本では、400円ほどで販売されており、割高と言える。米売り場のシンガポール人スタッフに聞くと、このような高価な米を購入するのは日本人ではなく、シンガポールの富裕層や中国人だという。
「シンガポールの人たちは、どこの産地のどのブランドのお米が美味しいか、知っています。このスーパー周辺は富裕層が多く住んでいるので、価格が高くても美味しければ買います」とスーパーのスタッフから返ってきた。こうやって、一度買って美味しければ、リピーターになるそうだ。
スタッフによると、日本産は「安心安全で品質が良い」とシンガポール消費者に評価されているので、その路線はしっかり守るべきと感じる。「安い米を買うのは日本人が中心」と先ほどのスタッフは説明してくれた。低品質で安価な農産物は海外の消費者、とくに富裕層からは求められていないようだ。
少し前は海外で日本産農産物について、「高すぎる」との感想が定番だったが、最近の急激な円安も影響して、少し状況が変わってきているようだ。2018年までは1シンガポールドルは約80円だったのが、今は約100円。シンガポールの人々には1キログラム1000円の日本産米でも800円ぐらいに値下げしているように感じるそうだ。
筆者が19年、1泊1万8000円弱で宿泊していたホテルも、今回は3万円以上と手が出なかった。ラーメンも1杯約2500円もする。ただし、これらの価格は円安だけでは説明がつかない。
円安は長くは続かないかもしれないが、日本の物価は相対的に安くなっているのを海外に出てはじめて、痛感する日本人は多いと思う。こうした日本の品が〝安く〟なっていることは、海外へと売り出す輸出においては、追い風と言える。
遅れたデジタル化
一方、デジタル化も日本はシンガポールに比べ、遅れているようだ。
シンガポールの地下鉄では、切符を購入できない。「切符を買いたいのですが」と地下鉄の窓口担当者に聞いたところ、「切符は売っていません。クレジットカードを持っていますか? それで改札を通れます」と言われた。
クレジットカードを改札で使うのは、情報が盗まれていないか? また、利用の途中で紛失したりしないかと当初は不安だった。ただし、抵抗感があったのは最初だけで、慣れると便利なのが理解できた。