2024年5月2日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2023年4月14日

人口と1人当たりGDPの関係性

 そもそも、人口と1人当たりGDPとの関係はどうなっているだろうか。それを見たのが図5である。

 図は縦軸に1人当たりGDPの年平均成長率、横軸に人口の年平均増加率を示したものである(1980年から2022年までの値)。図に見るように、日本とブルネイを例外として、人口増加率が低いほど一人当たりGDPの成長率が高いことが分かる。決定係数は図中に示されているように0.408とかなり強い関係がある(回帰式と決定係数は日本とブルネイを除いたもの)。

 これを見ると、日本は明らかな外れ値である。人口が増加しない方が1人当たりGDPを増やすためには有利であるのに、その利点を使えなかった国ということになる。

 多くの人は、人口減少が日本のもっとも重大な問題と考えているようである。しかし、1人当たりGDPが伸びなかったことの方がさらに大きな問題ではないか。

 なぜ政治家や役人が人口に夢中になるかというと、人口が増えないのは、誰のせいとも特定できないからだろう。1人当たりが伸びないのは、筆者に言わせれば金融政策の誤りで景気回復を度々遅らし、構造改革ができなかったからだ。

 金融政策の誤り説には賛同しない人が多いことを承知しているが、ほとんどの人が構造改革をできなかったことには同意する。しかし、どういう構造改革をすべきだったかについては多くの人が答えられない。筆者は、あらゆる分野で生産性の上昇を邪魔するような政策が行われているからだと答えたい。

 1人当たりGDPが増えない理由として、多くの人が信じている「日本にはGAFAのようなすごい企業がないからだ論」ではなくて、「PCR検査目詰まり論」を提唱したい。安倍晋三首相(当時)がPCR検査を拡大しろと指示しても増加せず、首相自らこの状況をPCR検査の「目詰まり」と説明した(『増えないPCR検査 安倍首相が旗振れど、現場は改善せず』東京新聞2020年7月29日)。

 なぜPCR検査が増えないのか筆者は分からなかったが、PCR検査を手作業でする姿と自動検査機でする姿の映像を見て理解できた(『日本生まれ「全自動PCR」装置、世界で大活躍 なぜ日本で使われず?』TBS NEWS23 2020年6月29日)。複雑な検査を手作業ですれば急に検査数を増やすことはできない。人を訓練して間違いのないようにしなければ、無用の混乱が起きるからだ。しかし、機械で行えば熟練者は必要なく、いくらでも検査できる。

 自動検査機の生産性は人手でする場合の100倍を上回るだろう。しかし、厚生労働省は、自動検査機の導入を遅らした。ここから、日本のGDPが増加しない理由が理解できる。ありとあらゆるところで、このような自動化機械あるいはコンピューターによる作業合理化に反対する人々がいるのだろう。これでは、日本のGDPは増加しない。

 多くの人々が、人口減少が問題だという。確かに問題だが、1人当たりのGDPが増加しないことの方が問題ではないか。国際比較をすると、人口が減少している国ほど一人当たりのGDPが増加する傾向があるのに、日本は外れ値である。

 日本がこのような外れ値になるのは、生産性を上げようとすると、あらゆるところで邪魔が入るからだ。異次元の少子化対策よりも、まずこのような邪魔を除去することが大事ではないか。

   
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