公共施設の廃止を巡り感情論に陥らないために
自治体の施策で度々新聞紙上を賑わすトピックといえば、公立病院や文化施設の廃止、かつて通った小学校の廃止・統廃合などだろう。表面化するのは、住民それぞれの利害や正義感によってさまざまな主張がぶつかり、どうしようもなくこじれたときだ。
賛成と反対の側のどちらにも「正義」があって、とくに施設の廃止については、当の施設が必要か必要でないかの2分法で考えればほとんどのケースで「必要」となるのでややこしい。
自治体の財務分析が貢献するのはまさにこの時である。賛成、反対の両方の側で、財政をこれ以上悪化させないギリギリの点を共有することが、感情論に陥ることを避ける、建設的な議論に欠かせないからだ。
まずは「あれもこれも」でなく「あれかこれか」への発想の転換が必要だが、これは財源には限りがあるという共通認識が不可欠だ。その上で、現状と将来を見据えた健全な妥協点を見出してほしい。
行政キャッシュフロー計算書で財政モニタリングをしている財務省だが、2020年1月には東北財務局が財政研修会の「まちの家計簿シミュレーション」を宮城県涌谷町で開催した。涌谷町は2019年に「財政非常事態宣言」を公表していた。歳入歳出決算による従来指標では見過ごされていた悪化の兆候が、東北財務局の診断では指摘されていたという経緯がある。
シミュレーションでは東北財務局が独自に開発したアプリを使用した。人口推計などの条件をインプットして将来の税収見通しを置き、教育費や公共事業費などさまざまな施策を反映した項目を増減させることで、債務償還可能年数をはじめ分析指標がどのように変化するかをシミュレーションするものだ。将来の財政悪化が見込まれる施策は再考が必要ということになる。
この財政研修会は職員や議員を対象としたものだが、対象を住民にも広げるのも今後の課題だろう。公約、施策と財政にかかるリテラシーが高まることが期待される。
あなたはご存じだろうか。自分の住む地方議会の議員の顔を、名前を、どんな仕事をしているのかを─。住民の関心は高まらず、投票率の低下や議員のなり手不足は年々深刻化している。地方議会とは一体、誰のために、何のためにあるのか。4月に統一地方選挙を控える今だからこそ、その意義を再考したい。