2024年11月25日(月)

家庭医の日常

2023年4月29日

喘息の治療は発作のない時から

 喘息の治療というと、喘息発作を起こした患者に救急外来などで酸素投与、気管支拡張薬の吸入・点滴などを行う急性期の治療のイメージが強いが、実は喘息は慢性の病気である。長期にわたって、いかに発作の頻度を減らし症状を軽くするか、治療薬の種類と量を少なくできるか、治療薬による副作用を減らせるか、そして日常生活への支障を少なくし生活の質を向上できるか、患者とともに戦略を練ることが重要である。

 米国疾病管理予防センターのデータであるが、喘息をもつ患者の60%以上がその症状をコントロールされず日常生活に支障が出ているという。わが国でも、発作のない時はたまに薬をもらいに受診しても、その機会に次の発作を予防するためにどうしたら良いかを相談することがなく、結局また発作を起こして医療機関へ駆け込まなければならなくなる、という診療が多いのではないか。こうした循環を断ち切らなければならない。

喘息コントロールテストで動機づけ

 「じゃあT.M.さん、いつもの『喘息コントロールテスト』をやってみましょうか」

 「『アクト』ですね。はい、いいですよ」

 喘息コントロールテスト(Asthma Control Test; ACT)は、喘息の症状がどの程度コントロールされているかを知るためのツールで、科学的に有用性が検証されており、広く世界で使用されている。12歳以上では、5つの質問に答えて(所要時間1分)それらの点数を合計する。4〜11歳の子どもは親子で7つの質問に答える(所要時間5分)。日本語版もあり、ウェブ上で見ることができる。

 12歳以上では、日常生活への支障、息切れ、夜間や早朝の覚醒、発作治療薬の使用、自己評価についてそれぞれの程度を確認する質問で、5段階(1〜5点)評価だ。25点満点で、20点以上が良好なコントロールを意味する。

 3年前、T.M.さんの『アクト』は12点だった。ほぼ毎日症状があり、週に2〜3回は苦しさで夜間に目が覚め、日に1〜2回は発作治療薬の吸入を使っていた。受診時には、聴診で左右の肺で喘鳴が聴こえた。

 T.M.さんは、大手広告代理店で、コピーライターのチームに属している。結婚しており、現在4歳の娘と3歳の息子がいる。奥さんは、子どもたちを保育園に預けながら非常勤で大学の事務職をしている。

 初診当時、T.M.さんの体格は、身長175センチ、体重98キロ、BMIは32の肥満だった。さらに、タバコを1日に5 本吸っていた。会社でのストレス、コロナ禍の在宅勤務での過食と運動不足もあった。

 幸い、『アクト』の点数の「あまりの低さ」と小さな子どもたちに喘息が「移らないように」というT.M.さん自身の解釈による動機づけで、生活習慣の改善は予想以上に進み、同時に進めた喘息の薬物療法の調整も功を奏した。


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