2024年12月23日(月)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年4月29日

 統一地方選と同時に行われた衆院補選の応援で、和歌山県を遊説中であった岸田文雄首相は、4月15日に和歌山市の雑賀崎漁港において爆弾を使用したテロ攻撃に遭遇した。結果的に大事に至ることはなく済んだのは良かったが、極めて悪質かつ重大な事件と考える。

襲撃事件後も岸田首相は他の選挙区へ応援演説に駆けつけていた(AP/アフロ)

 この事件は、昨年の安倍晋三元首相襲撃事件に続く重大なテロ事件であり、今後は模倣犯の徹底的な抑止に務める必要がある。更に言えば、今後、選挙などで要人が演説を行う場合は、会場における参加者へのチェック強化、SPの人材育成、そしてSPと地方警察の連携向上など、具体的な対策を迫られているのは事実だ。

 だが、今回の事件、そして昨年の安倍氏の事件もそうだが、選挙のたびに要人が全国を遊説し、多くの場合は有権者の中に飛び込んで握手などのパフォーマンスを行うことについては、現在の形が果たして良いのか、疑問を感じざるを得ない。

 問題は要人に限らない。地方選挙にしても、国政においても同じであり、どの選挙においても、「ドブ板戦術」というのがモノを言うとされる。例えば、今回の岸田首相にしても、漁港でエビを試食する等のパフォーマンスを行わなくてはならなかったのがいい例だ。

 候補者が、有権者に直接語りかけるのが悪いとは言わない。また重要な選挙区で、候補者を強く売り込むために、その政党の幹部などが応援に駆けつけ、そこで有権者に姿を見せることも、別に悪いとは思わない。

 だが、今回の選挙においては特にそうだが、2つの深刻な問題が横たわっている。

見えない政策論争、前面に出た「人」

 1つは、選挙運動を通じて政策上の争点の取り上げ方が、余りにも薄いということだ。例えば、今回の補選は、岸田首相への信任投票という面がかなり強調されていたし、仮に大勝すればサミット後の解散総選挙に勝って、更に長期政権を目指す、そのための足がかりだとも言われていた。

 であるならば、野党はもっと政策面での代案をもって対決を迫るべきだ。例えば、軍事費倍増に反対するのであれば、日本の安全の保障をどうするのか、従来通りの負担額で同様の防衛負担を米国に頼むのか、北朝鮮などと交渉して危険を下げる知恵があるのか、真剣な代案が必要だ。少子高齢化と低生産性の中で、経済成長の原則を甘んじて受け入れるのか、それとも身を切る改革に踏み込むのか、どう考えても野党には代案らしいものがなかった。

 自民党にしても、実施する際には避けて通れない政策の副作用について、あえて民意のお墨付きを取る迫力に欠けていた。子育て問題にしても、防衛費にしても財源の案を示して民意の納得を引き出すよりも、問題を曖昧にして選挙に勝った後に法案を通せばいいという安易な姿勢が目立っていた。

 ドブ板選挙というのは、有権者の住む一軒一軒を徹底的に回って自分を売り込む「ドブ板営業」という言葉から来ている。営業の場合は品物を持って何とか購入させようとするわけだが、政治家の場合、そこで持っていくべきは政策のはずだ。


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