2024年4月29日(月)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年4月29日

好印象を振りまく選挙活動にさらばを

 こうしたことから、政治家が有権者に訴えるのは、熱意という印象であったり、握手という感触であったりするだけになる。更に言えば、特に都市部で顕著と思われるが、聴衆の方も真剣な政策への賛否を問いつつ聞いているのではなく、多くの場合は「著名な政治家の生の声はどんなものか」という一種の野次馬根性で、通りすがりに耳を傾けるに過ぎない。

 今回の統一地方選挙では、運動員に対する散発的な暴力や暴言といった事件が、毎日のように報じられた。被害を受けた各陣営は、公職選挙法への挑戦だとしており、その気持も分からないではない。だが、候補者名の連呼や、お願い口調の大音量というのは、確かに「政策論の競い合い」という「憲政の常道」から見れば逸脱であり、民主主義のレベルからしたら後退だということは、考えておくべきと思う。

 昨年から今年にかけての2回の事件は、確かに凶悪な犯罪であり、また同時に容疑者の極めて特異で極端な価値観を反映したものと言える。それとは別に、首相経験者や首相自身が「好印象を振りまく」ということのために、果たして命の危険を冒すということは、果たしてこのまま続けていいのか、筆者は疑問に思う。

 暴力に屈しなかった岸田首相には敬意を払うが、そこまでの勇気があるのなら、やはり有権者には「誠実さ」や「熱意」といった無形のものではなく、政策論を堂々と掲げて信を問うていただきたい。

   
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