安倍晋三元首相が殺害された事件では、事件当時の警備体制が問題とされた。世論の強い批判を受けて、警察庁は8月25日に「令和4年7月8日に奈良市内において実施された安倍晋三元内閣総理大臣に係る警護についての検証及び警護の見直しに関する報告書」を公表した。同時に中村格警視庁長官は勇退を発表している。
この報告書であるが、事件の具体的経過、そして警備計画への反省がかなり詳しく書かれている。同時に、改善の方向として従来は都道府県警察本部が中心になって実施していた要人警護に関しては、全国を統括する警察庁の関与を強化し、ある意味では「中央への集中」を進める方針が打ち出されている。
具体的には、警察庁が警護の現場指揮官など人材の育成に関与すること、そして、警察庁が把握している危険情報を都道府県警察と共有することなどが挙げられている。中でも最も重要なのは、各都道府県警察が作成する警護計画について、警察庁が事前に審査を行うよう運用を改めるという点だ。
要人警護の実施には、政治や、場合によっては国際情勢などの諜報(インテリジェンス)とその評価などといった複雑な要因が絡む。従って、情報の質や量、そして警護に関わるノウハウや経験については、都道府県警察と比較すると、警察庁は圧倒的な蓄積があるわけであり、現実的な方策として理解はできる。
けれども、単に警護計画を警察庁が事前審査するように改めたからといって、それが明らかに要人警護の体制強化になるという保証はない。かといって、米国の「シークレット・サービス」のように、高度な専門家集団を養成する必要があるかというと、日本には日本の国情があり米国の模倣が正しいとも思えない。ちなみに、「シークレット・サービス」というのは、米国の数多くある独立した警察組織の1つであり、要人警護に加えて金融犯罪の摘発など広域な捜査を担当する特殊技能集団である。
では、具体的にどのような改善を進めれば良いのだろうか。