2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月22日

 ただ、「ワシントン宣言」は、韓国に核兵器が持ち込まれることを意味する。日本は非核3原則で「作らず、持たず、持ち込ませず」としているが、この「持ち込ませず」を変えないと、日韓両国の米国の核兵器に対する姿勢は同じにならず、現在強化されてきている日米韓のパートナーシップの歩調を日本が乱すことになりかねない。

 今度の尹大統領の訪米を機に、バイデン大統領は、「韓国に対する北朝鮮のいかなる核攻撃も、迅速かつ圧倒的で決定的な対応に直面することになる」と警告し、北朝鮮の政権を崩壊させると述べた。これも重要な発言である。

冷戦期にも揺らいだ「核の傘」

 1970年代末期にソ連は核兵器を搭載するSS-20という中距離弾道ミサイルを配備した。この兵器は米国には届かないもので、それが例えば西ドイツに打ち込まれた場合、米国は戦略核でニューヨーク、ワシントンが攻撃対象になる可能性があるのに、ソ連に反撃できるのかということが問題にされた。

 西ドイツの当時の首相シュミットは、米国が西ドイツの都市を守るためにニューヨークを犠牲にするとは考えられない、米欧の安全保障はデカップリングされると騒いだ。その結果、米国は欧州に核搭載巡航ミサイルと弾道ミサイル「パーシング2」を配備し、シュミットの不安を宥めたことがあった。今度のバイデン発言は、韓国の安全保障は米国の安全保障からデカップリングされることはないという事を明示したものである。シュミットの時も、欧州は米国に核ミサイルの持ち込みを要請した。ここでも「持ち込ませず」は政策として成り立ちにくいことが示されている。

 中距離核戦力(INF)の全廃条約は、ロシアが廃棄し、存在しない。中国のINFは増加の一途である。そういう状況を踏まえて深く考えてみる必要がある。

 北朝鮮が米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成に力を入れているのは、米国の都市を攻撃する能力を持てば米国を抑止できるとのシュミットが言ったデカップリングを考えているのではないかと思う。そういう事にはならないことを今から明らかにしておくことは重要である。

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