動きはじめた21世紀の「グレートゲーム」
「中国・中央アジアサミット」とは、中国が急速に自滅するロシアを尻目に、中央アジアに堂々と西進することを宣揚する機会でもあった。
ロシア側も5月24~25日に「ユーラシア経済同盟」(EAEU)会合をモスクワで開催し、加盟国であるカザフスタン、キルギス、アルメニア、ベラルーシなどの首脳が集った。しかし、対中接近を強めながらロシアとの関係に明確な距離を取りはじめているカザフスタンのトカエフ大統領は、ロシアとベラルーシの核共有(すなわち、その先にある「連合国家」化による再統合)を非難し、また係争地域ナゴルノカラバフをめぐって対立するアルメニアとアゼルバイジャンの首脳は、プーチンの面前で勝手に激論を交えるなど、かえってロシアの威信凋落を印象付けるものとなった。
では中国側の思惑通りに、中央アジアへの影響力・支配力が一方的に強まるのかと言えば、そう簡単ではない。カザフスタンの姿勢からも明らかなように、彼らは近代以降の「ロシアのくびき」がもはや動揺し、壊れつつあることを確信している。この大きなパラダイム転換の中、自らの安全保障と経済利益を確保する上でもっとも手早い方法が、中国との関係強化というシフトなのである。
しかし、その中央アジア諸国とて、自らが新たな「中国のくびき」に絡めとられることを良しとしていない。彼らは大国間の角逐に巻き込まれず、しかし中央アジアという現実の地理的制約があるなかで実利を引き出すため、新たなバランスを模索しているにすぎない。したがって、中国との関係性にしても、習近平と中国が自己陶酔する「運命共同体」などは、至極醒めた目でみているのが現実である。
加えて、米国も弱い動機付けではあるが、今年2月下旬に「中央アジア+1(米国)」外相会議を開催し、遅まきながらアプローチを強化している。また、歴史的・地理的にもテュルク系民族・語族として親和性があり、すでに中央アジア諸国とも「テュルク諸国機構」を形成しているトルコが、今後に新たな発展機会を求めて影響力を東進させる可能性は否定できず、中央アジアとの間で思わぬ相互反応が生じることも有り得る。
まさにユーラシアをめぐっては、近代以降の常識では理解不可能な21世紀の「グレートゲーム」が、新たなプレーヤーたちの手によって、大きく動きはじめているのである。
2013年、中国の習近平国家主席が突如打ち出した「一帯一路」構想。中国政府だけでなく、西側諸国までもがその言葉に“幻惑”された。それから7年。中国や沿線国は何を残し、何を得て、何を失ったのか。現地の専門家たちから見た「真実」。それを踏まえた日本の「針路」とは。
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