2024年5月17日(金)

WEDGE REPORT

2023年6月12日

 EUは、10月、ポーランドが従わない場合、1日当たり100万ユーロ(約1億5000万円)の罰金を科すと追い打ちをかけた。EUとポーランドは激しく対立、当時、ポーランドではブレグジットならぬPOLEXIT(ポーランドのEU離脱)すら主張された。

 この「欧州の問題児」がウクライナ侵攻を機に「欧州の優等生」に変身した。無論、EUが指摘する問題が解決したわけでも何でもない。ポーランドの問題は、EUの根本原則に触れ看過できないものであることに変わりはない。

 ただ、今はとにかくウクライナだ。欧州上げてウクライナ支援に全力を挙げることが何にも増して優先されなければならない。

自国のために進められるウクライナ支援

 ポーランドは500キロメートル以上にわたりウクライナと国境を接する。戦火を逃れたウクライナ国民は大挙して欧州に逃れ、その数810万人以上に上った(UNHCR、23年3月現在)。その多くが向かったのがポーランドだ。

 しばらくして戦いの中心がウクライナ東部に移ったこともあり、避難民の中には再度帰還した者も少なくないが、今なおポーランドに多くの避難民が残る事実に変わりはない。これらの人々に対し、ポーランド政府は住居や学校の生活支援、就職先の世話等、手厚い保護を提供してきた。

 ポーランドは、ウクライナにとり中国に次ぐ第二の輸出相手国で、経済関係は緊密だ。だが両国国民の感情は平坦だったわけではない。第二次世界大戦の時、多くのポーランド人がウクライナの手で虐殺される事件も起きた(ヴォルイーニの悲劇)。

 ポーランド人のウクライナに対する感情は今なお複雑といっていい。しかし、その全てをロシアの侵攻が変えた。ポーランドはウクライナ国民を温かく迎え入れた。

 その背景にあるのが、ポーランドの辿った悲惨な歴史だ。第一次世界大戦前、ポーランドは四次にわたる分割の過程で繰り返しロシアに併合された。第二次世界大戦に当たっては、再びロシアとドイツに分割され国土が消えた。戦争が終わり独立を回復したと思ったら、今度はロシアによる共産党支配だ。

 ポーランド人にとり、ロシアはぬぐい去ることのできない悲惨な記憶として今も心の中に残る。とてもウクライナを他人事と思えない。

 しかも、それは過ぎ去った昔の出来事というだけでない。「ウクライナの次はポーランド」との危機意識がある。これまで何度となく国土が蹂躙された。ウクライナの次にロシアがポーランドに銃口を向けるのは十分あり得ることだ。ウクライナ防衛はポーランド防衛そのものなのだ。

今やドイツの尻を叩く

 侵攻後、欧米はロシアの侵攻を非難、直ちにウクライナ支援に乗り出した。武器や生活物資の供与ルートは決まってポーランドを経由した。文字通り、ポーランドがウクライナ支援の最前線になった。

 「ウクライナは国際秩序を守るために戦っている。欧米は、できる限り要請にこたえ武器供与に応じていくべきだ」。ポーランドは、先頭に立って議論を主導した。

 戦車にせよ戦闘機にせよ、供与の先鞭をつけたのはポーランドだ。ドイツやフランスは後からついていった。


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