これに対して、ドイツが煮え切らない。当初、ドイツは紛争地への攻撃用武器供与は許されないとして、代わりにヘルメット5000個を送った。しかし、今、ウクライナはロシアと血みどろの戦いを繰り広げている、その国民に対し、ヘルメットをかぶって弾よけでもしろというのか、と冷笑された。
その後、第三国によるドイツ製武器供与の容認、ドイツによる自走式対空砲ゲパルトや戦車レオパルト2の供与と、武器供与のレベルはどんどん上がっていったが、そのたびにドイツは逡巡を繰り返してきた。
この煮え切らないドイツの尻をポーランドが叩く。かつて欧州の問題児とされたあのポーランドが、だ。
いつまでの不安は払しょくされない
そのポーランドは、国土防衛こそ第一とし防衛費増は厭わないという。しかし、対露防衛は短期で終わらない。今後、長期にわたって備えていかなければならないのだ。
確かに、ウクライナ侵攻はプーチンの狂気が引き起こした。しかし、では、ウクライナで停戦がなった後、あるいはロシアが〝プーチン後〟に移行した後、ロシアは二度と他国に侵攻しないと言えるか。
ウクライナ侵攻は冷戦後の欧州の安逸な認識を打ち砕いた。各国は、もう侵略戦争はないとして防衛費を大幅に削った。しかし、それは単なる幻想でしかなかった。
長い歴史を見れば、ロシア(ソ連)は常に領土を拡張してきた。歴史家は、それをロシア人の尋常ならざる防衛本能の賜物と見る。
陸続きで進軍を遮るものがない欧州大陸にあって、ロシア人は常に侵略の恐怖に晒された。その恐怖を逃れる唯一の手段は国境線を少しでも遠くに広げることだった。その本能は、21世紀の今日になっても変わらない。
もう一つ重要なのは、独裁政権は、国民の不満をそらし団結させるため、かつての帝国の記憶に呼び掛ける必要があるということだ。プーチン氏(またはその後継者)にとり、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、ジョージア、ポーランド、バルト三国、更にはアルメニアや中央アジア諸国を勢力圏に取り込むことは自らの政権維持にとっても不可欠なのだ。
従って、仮にウクライナで停戦がなるにせよ、あるいはロシアがプーチン後に移行するにせよ、ポーランドをはじめ欧州各国が警戒の手を緩めることができる日は当分やってこないに違いない。欧州各国の防衛費は今後高い水準で推移していかざるを得ないということだ。