2024年5月14日(火)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年6月28日

 島国という地理的状況から発電用石炭を海外からの輸入に頼らざるを得なかった日本の電力事業者は、長年、調達コスト低下のため、より少ない石炭を高効率に燃焼させ高いエネルギー量を得る火力発電技術を磨いてきた。ゼロエミッション技術の確立は、それら石炭火力技術の積み重ねという〝土台〟の上で取り組む、新たな挑戦である。

石炭ガス化とアンモニア混焼
異なるアプローチで挑む

 国内7カ所の石炭火力発電所を運営するJパワーは、「石炭ガス化」と「CO2分離・回収・貯留(CCS)」という2つのゼロエミッション技術の確立を目指す。石炭から取り出した可燃性の水素ガスを発電に利用し、発生したCO2を分離・回収し地中に埋め戻すことでカーボンフリーな電力が得られる。12年から広島県で中国電力と共同で進める「大崎クールジェン」プロジェクトで得られた実証成果をもとに、現在、松島火力発電所(長崎県西海市)での石炭ガス化技術の商用化を目指す。既存インフラを生かしながら、石炭ガス化設備の付加工事を24年から着手し、26年度の運転開始を予定する。

大崎クールジェン実証地の全景(広島県大崎上島町)(JPOWER)

 次なるステップは、ガス化発電事業の着実な遂行に加え、石炭利用からCCSに至る一連の流れを国内で確立させることだ。Jパワー火力エネルギー部の中村郷平部長代理は「日本近海エリアにはCO2を地中深くに閉じ込めるための貯留層が国内年間排出量の100年分規模で存在すると推定される。今後の課題は精度の高い適地の特定だ」と語る。同社は今年2月、ENEOSホールディングスなどと共同で国内CCSの事業化に向けた合弁会社である西日本カーボン貯留調査を設立し、適地調査に向けた準備を開始した。将来的には、発電所や製油所で発生・回収したCO2を輸送船や海底パイプラインを通じてハブに集積し、地下貯留層に圧入する計画だ。30年の操業開始を視野に、国内初となるCCSサプライチェーンの構築に挑む。

 Jパワーとは異なるアプローチで、石炭火力の脱炭素化を目指すのがJERAだ。同社は、燃焼してもCO2を排出しない「アンモニア」に着目し、石炭とアンモニアを混焼させることによる、CO2排出の段階的な削減を追求する。アンモニアは現在も化学肥料用途などで国際的に取引され、すでにサプライチェーンが構築されている。また、気体エネルギーを海外から日本へ大量輸送するためには冷却して液体状態とし体積を減少させる必要があるが、マイナス約162℃の沸点で気化する天然ガスに比べ、アンモニアの沸点はマイナス約33℃で、常温に近い温度で運搬できるため、冷却エネルギーの消費が少ない。さらに、アンモニアは燃焼速度が遅いため、石炭火力との相性が良いのも利点だ。

碧南火力発電所の発電用バーナー。今秋、アンモニア混焼仕様へと改良を予定(WEDGE)

 「大きな課題は、燃焼時に発生する窒素酸化物の抑制だ」と語るのは、JERA脱炭素推進室の高橋賢司室長。「有害物質である窒素酸化物(NOX)は、アンモニア(NH3)に含まれる窒素(N)が、空気中の酸素(O)と結合した際に発生する。それを防ぐためには、発電用ボイラー内で先に石炭を燃焼させ、酸素が薄くなった箇所にアンモニアを投入、燃焼させる必要があった」と説明する。この燃焼時における石炭、アンモニア、酸素の投入量とタイミングこそが、技術実証の〝肝〟であり、それを可能にしたのが、IHIが開発した20%混焼バーナーだ。従来の石炭火力バーナーに改良を加えることで混焼が可能で、既存設備を生かすことができる。


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