2024年5月14日(火)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年6月28日

 冒頭の碧南火力発電所は1号機から5号機までの発電設備を保有するが、そのうち100万キロワットの出力を持つ4号機のボイラーに備わる48本のバーナーを、今秋に混焼用へ改良する。前頁の写真はそのうちの1本だが、大人1人が両手を広げたくらいの大きさがあり、ボイラー全体の大きさが窺い知れるだろう。その他にも碧南火力構内では、液化アンモニアを保管するためのタンクの設営や、運搬船が着岸する桟橋からタンクを結ぶ全長3キロメートルの配管工事などが進められている。20年代後半での年間を通じた商用運転に向け、まずは23年度末に実証試験を開始するが、試験とはいえ、日々の電力供給を担う商用機を用いる。

碧南火力発電所構内に建設中の実証試験用アンモニア保管タンク(左)。輸送用配管(右)も敷設中だ(JERA)

気候変動に向け対応すべきは
「石炭」ではなく「CO2」削減

 「アンモニアは毒性が強い物質だが、その混焼実証に関して、地元の企業や住民の理解は得られたのか」という小誌記者の質問に、谷川所長は手元の鞄から1本の小瓶を取り出し、目を細めながらこう説明した。

 「皆さんまず、『アンモニアって何?』からはじまる。石炭と違って目に見えるものじゃない。だからまずはこの小瓶に入ったアンモニアを手であおぎ、その刺激臭を体感していただく。そして、碧南火力は、発電時に発生する排ガス処理のためにこのアンモニアを長年使用してきた取り扱いの実績があること、さらに、CO2排出削減に向けて今後は発電に利用していきたいことを丁寧に説明している。そうすると地元企業も、地域住民も皆さん一様に応援してくださる。われわれとしても、身が引き締まる思いだ」

 石炭火力の脱炭素化に向けた技術開発について、気候変動に関する国際的な交渉を担当する経済産業省の南亮首席国際カーボンニュートラル政策統括調整官は「今後、ますます海外展開に力を入れるべきだ」と述べる。さらに、「石炭火力が主流で、14億人のインドや6億人の東南アジアはまさに今、この分野での技術発展を求めている。日本の1億人経済圏にとどまらず、それらの国々へと市場を拡大することで導入コストが下がり、より一層、国内外へと普及していくはずだ。政府として支援していきたい」と続ける。

 前出の坂本理事は「カーボンニュートラルの国際議論ではしばしば石炭火力や火力発電そのものが〝悪者〟とされるが、われわれが対応すべき真の課題は『CO2削減』であるはずだ」と指摘する。気候変動対策を理念やイデオロギーの議論で終わらせず、国や地域を超えて、現実的かつ段階的な脱炭素社会への道のりを一歩ずつ前に進めていく。その〝転ばぬ先の杖〟としての役割を、日本が世界にリードする石炭火力のゼロエミッション技術に期待したい。

   
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