2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2023年7月1日

それでも他国と比べて低い観光業の生産性

 3点目として、「Socioeconomic Resilience and Conditions (7 indicators)」を確認したい。Socioeconomic Resilience and Conditionsとは、「社会経済的な福利と弾力性」を表し、労働者の生産性を向上させ、より多くの質の高い労働力を生み出すための要素を把握するもので、日本のスコアは7点満点中5.7、世界11位ではあり、改善の余地がある水準であると拝察する。

 事実、日本の観光業の労働生産性(名目国内総生産〈GDP〉÷就業者数)は、日本の他産業や海外の観光業と比較して必ずしも高いとは言えない。観光庁「令和5年半観光白書」に公表しているデータによると、2022年度の労働生産性は、全産業平均では722万円に対し、観光業の代表的な業種である宿泊業では268万円とおよそ2.7倍の違いがある。新型コロナウイルス感染症の影響がなかった18年度で見ても、全産業平均では730万円に対し、宿泊業では510万円と、1.4倍の違いがある。

 観光業の労働生産性が低い要因として、季節ごとの需要変動を受けることや、いまだに労働集約型の働き方から脱却できていないことなどが考えられる。しかし、海外の観光業も同様に労働生産性が低いかと言うと、必ずしもそうではない。

 一橋大学の深尾京司教授や専修大学の金榮愨教授、日本大学の権赫旭教授 による「観光産業の生産性」(日本労働研究雑誌、2019年)では、09年で時点では、日本の飲食・宿泊業の生産性は米国に対して26.5%程度であるという。つまり、当時の米国の観光業は、日本の観光業の約3.8倍もの労働生産性があったことになる。

 そんなこと言われても、「ではどうすればよいの」という方も多いかと思う。実は一番大事なのは意識改革である。

 これまでの〝よいもの・サービスを安く〟提供するのがよいことであるという考え方を〝よいもの・サービスは相応の価格〟にシフトするのである。その際「顧客の視点で何に価値を感じているか」という点と、「高い価値を認めて、高い価格を支払う顧客」はどんな人でどこにいるのかを往復して考えることが必要である。

 そのようにして、日本の観光業の労働生産性を上げることは、日本の観光の持続性が担保されるのである。

(構成協力・株式会社クニエ

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