季節の変化ゆえに年間旅行客の平準化が課題という声をしばしば耳にするが、その季節変化を機会要因として国内で活用している事例も出てきている。
世界的に見ても独自の文化的背景を有する
2点目として、「Cultural Resources (6 indicators)」について見て行こう。Cultural Resourcesとは「文化資源」を表し、遺跡や娯楽施設などの文化資源の有無が測定されており、日本はこのスコアが7点満点中6.4、世界4位と比較的高い水準にある。
先述の「訪日外国人旅行者の意向調査」によると、”旅行者が訪日旅行で体験したいこと”の設問では、アジア・欧米豪の旅行者で共通して「有名な史跡や歴史的な建造物の見学」が上位に挙がっているほか、「世界遺産の見物」「日本文化の体験(茶道、華道、着物試着など)」「伝統工芸品の工房見学・体験」なども、30%から40%台の支持を得ており、一定の人気を誇っていることがわかる。
一方で、このままの路線で、文化資源の見学や体験といったサービスを提供していけばいいのか、ということになると、特に歴史背景や文化の成り立ちにまで踏み込んだ理解をしたい、いわゆる知的富裕層が堪能するコンテンツの提供といった観点においては、改善に余地があると考える。
知的富裕層の旺盛な知的好奇心を満たすためには、外国語に“訳した”最低限の説明だけでは逆効果の場合もある。例えば、筆者が海外の知的富裕層に属する知人から聞いた話ではあるが、日本の歴史的な建造物や美術工芸品の解説においては、極端に簡略化されて、その歴史的な背景や意味、魅力を感じることができないケースと、日本人向けの解説文をそのまま訳した日本の義務教育を完遂したレベルの日本の歴史の知識が前提となる解説文となっているために外国人には理解が難しいケースに大別されているという。
結果、この知人の話では、外国人目線で魅力を堪能できる解説文は皆無であり、大なり小なり不満の種となっているようであった。人により程度の差はあるものの、文化面において高付加価値な旅を求める訪日外国人は、このような日本文化の深部への理解を期待する場合が多い。多少の不便を感じても、高級ホテルへの滞在よりも、寺泊・城泊といった形で、日本の当時の食や調度品にかこまれて耽美したい、そのような価値がある体験に対しては十分な対価を支払いたい、という層が日本の文化資源観光の最重要の顧客になると考える。
このような対策を地域の文化の担い手の努力に委ねるだけでは限界がある。文化庁や観光庁が主導している解説文の多言語化においても、単なる翻訳ではない外国人目線で魅力ある解説文の普及に数年来取り組んでおり、継続的な活動に期待しつつ、解説文の拡充に加えて、知的富裕層の行動様式を熟知した専門家と連携をした文化資源を中心とした滞在のコーディネーションが求められるのではないだろうか。
さらに言えば、インバウンドの来日客を伝統工芸や文化のファンにして、帰国後もその製品や文化を購入し、継続的なファンとなってまた来日するというようなインバウンドとアウトバウンドのループの構築を意識することによって一層の発展も見込めるだろう。筆者はそれをインバウンド・アウトバウンド・ループ(IOL)と読んでいる。