実際に、子育て世代の中で、出口さんのような悩みを抱える人は少なくない。文部科学省による「令和2年度家庭教育の総合的推進に関する調査研究」によれば、回答者の7割が子育てについて悩みや不安を抱える。また、3~4割程度は、「子どもの気持ちが分からない」「子どもの健康や発達について悩みや不安がある」といった、子どもの発達課題に対する悩みを持っていることが分かった。さらに、SCデジタルメディアによる「家庭のYouTube視聴に関する意識調査」によれば、7割もの親が子どもたちにYouTubeを視聴させつつも、4割の親は視聴時間が長くなることを気にしていたり、子どもにとって良いことなのか不安や後ろめたさを感じたりしているという。
子育てに関するツールやノウハウが多様化すればするほど、親たちは「子育てに失敗したくない」との思いを強め、正解のない〝迷路〟をさまよい歩くことになる。男性の育休取得率向上のように、両親の育児参画を高めることも必要だが、その中で親が子どもとどのような時間を過ごし、子どもの発育にどう関わっていくかについても、同時に考えていくことが重要だろう。そのための〝入り口〟として、出口さんは、知育玩具への理解を深める選択肢を選んだ。
『ルール、分かった?』
と、子どもに聞かないこと
「知育玩具2級講座」では、「4歳以上の子どもの発達課題の理解」「絵本、おもちゃ(積み木、ブロック、お人形、ドイツゲームなど)の選び方・与え方」「テレビ、インターネット、デジタルゲームとの付き合い方」などを体系的に学ぶ。講義形式の中で講師のよる実演を交えながら、実際の知育玩具を用いて参加者同士で遊んでみる時間も用意されている。冒頭がその一シーンだが、大人だけで遊んでもついつい白熱してしまうほど、〝やり込み度〟は奥が深そうだ。
同講座の中で、講師である出口さんは、カードゲームやボードゲームを用いて実際に子どもと一緒遊ぶ際に、一つ、意識してほしいことがあると話す。それは、「ルールを説明した後で子どもに『分かった?』と聞かないこと」だという。
「その質問以降、子どもにとって『遊びのルールを理解すること』自体が目的となってしまいます。とにかくまずはやってみて、楽しむことを目的にしてもらうこと。遊んでいる中で、子ども自身がルールについて疑問に思ったことを一つずつ解消していけば、自ずと理解は進んでいきます」
また、知育玩具は難易度や対象年齢がさまざまで発達段階に応じて適切なおもちゃを選ぶ必要があるが、「子どもの発達より少しレベルの高いものを与えること」が大切だと話す。最初は上手くできなくともチャレンジするうちにクリアすることで達成感を覚える過程で、「やり抜く力」が育つのだという。
同講座を受講したAさん(60代女性)は、現役の保育士だ。自身が働く保育園では子どもたちにおもちゃで遊ばせる時間を毎日つくっているものの、30年の保育士人生の中で、これまでおもちゃについて学ぶ機会がなかったことに気づいた。
「おもちゃによって、子どもたちの集中力や創造性を発揮する度合いが大きく異なることは、保育士の仕事を通じて以前から感じていました。講座を受講し、子どもたちの発達段階に応じたおもちゃを与え、なおかつ、その遊び方を私たち大人が正しく伝えることの大切さを知れたので、さっそく仕事の中で実践したいと思います」