2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2023年7月25日

三重苦が隠されている点状間伐

 間伐は、林分全体に均一に点々と伐倒していく点状間伐がふつうであるが、この伐倒作業こそが間伐の最大の難点である。林木と林木の間に倒すのが理想であるが、チェーンソーで思い通りの方向に伐倒するには熟練の技能が必要である。

写真 3:掛かり木処理

 少しでも手元が狂うと、掛かり木になる。伐倒木が別の立木に引っ掛かった状態になるのだ(写真3)。いったん掛かり木なると、それを外す労力が大きく、作業効率を著しく損ねる。

 また、掛かり木は不安定なので事故につながることが多く、死亡災害もしばしば起きる。さらに、掛けた立木の幹を損傷して、主伐時の品質低下を招く。間伐には作業性の三重苦が隠されているようだ。

 点状間伐の作業性の悪さは、間伐木の搬出についても同様である。残存木が邪魔して間伐木を直線的に林道まで運び出すことができない。残存木の根元に搬出木が当たって傷になる。

写真 4:残存木の損傷

 根元近くは元玉(もとだま)と呼ぶが、この部分は節がなく、刺身でいえばトロの部分である。間伐を繰り返した林分は、元玉の損傷が多く、主伐時に残念な思いをする。

 昔は根元を保護するため当て木を巻くのが常識だったが、今ではそのような手のかかることをする作業者はいない。ちなみに昔は、樹液が流動して樹皮の剥げやすく腐朽菌の入りやすい梅雨時期には伐採しなかったのだが、林業でも通年雇用や丸太の安定供給が常識となって伐採時季を気にしなくなった。品質確保のために、この時期の伐採は控えるべきであろう。

 作業性の改善のために、ハーベスタ(建設重機のアームの先に多機能なアタッチメント装着したもので、その場で伐倒・送材・枝払い・玉切りをすることができる〈写真5〉。玉切りとは伐倒木を切断して丸太にすることをいう)などの林業機械の導入が図られているが、急斜面が多い現場での三重苦の緩和には限度がある。森林作業道の作設が前提であり、機械使用の経費も高額なので費用対効果を悪化させる。

写真 5:ハーベスタによる間伐

 さらに粗悪な作業道の作設は、林地荒廃の原因となる。ヨーロッパのような比較的平坦な林地での作業との決定的な差がここにある。

賛否が別れる列状間伐

 点状間伐の作業性の悪さを改善したのが、写真6のような列状間伐である。直線状に1列伐採して2列残せば33%の間伐、1列伐採して3列残せば25%の間伐となる。ちなみに列状間伐の場合は、本数間伐率と材積間伐率が一致する。

写真 6:列状間伐

 列状間伐の問題は、これが間伐と言えるのか、間伐の効果があるのか、単なる山荒しではないかとまで非難されたことだ。特に研究者サイド、篤林家(研究熱心な林業家)サイドから厳しく批判されたのは、残存列の成長が期待できない、風害に弱い、列が斜面方向だと土砂流出が起きやすい、見た目からして荒っぽい間伐であるなどだ。

 写真6の現場では尾根近くに1本森林作業道があって、そこから伐採列が櫛の歯状に谷まで伸びている。谷底の方から谷方向に伐倒していけば、掛かり木になることはない。伐採列上に集材架線を張って伐倒木を森林作業道まで引き上げれば残存木を傷めることはない。


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