2024年5月18日(土)

勝負の分かれ目

2023年8月11日

 また、デイリースポーツのネット記事では、試合に勝った土浦日大の小菅勲監督が「クーリングタイムが助かる」と感謝を述べた、と記事にしている。

 選手たちがクーリングタイムを活用し、水分補給や送風機などで体温を下げたということだが、記事によれば、小菅監督は「(選手の体温が)45度くらいありましたから。あれで30何度まで下がって」などと明かし、チームの先発投手も「サーモグラフィーで体温を測ってくれて。最初サウナみたいに真っ赤で。冷やすと青になった」「体は冷やすが気持ちは切らないように、と。メリハリをつけた」と語ったという。

 過酷な甲子園のフィールドの状況が明かされた格好だが、クーリングタイムが実施されても選手が途中交代する事態に見舞われても、「監督がクーリングタイムに感謝」という見出しの記事が取り上げられる現状は、高校野球ファンや読者にどのように受け取られているのだろうか。

メディアにとって甲子園は都合の良いコンテンツ

 筆者もかつては新聞記者として15年ほど前に数年、甲子園の取材を経験した。

 新聞社に入社すると、地方支局に配属されるのだが、そこでは警察取材を主とする「事件・事故」、政治家や行政を取材する「国政と地方の選挙」そして、人にフォーカスした記事を書く「高校野球」を取材することが記者への登竜門とされてきた。

 自らの人生を「甲子園」という目標にかけて努力を積み重ねた球児たちの青春は勝っても、負けても美しく、友情やライバルとの関係も交えた「人物ストーリー」を書くには絶好の取材機会というわけである。若手と呼ばれる入社2、3年目までの記者は代表校の取材で甲子園に行く「長期出張」で連日のように記事を書きまくって鍛えられる。

 また、行政などが夏休みモードで取材機会が減る時期、支局がある県の高校が甲子園を勝ち進むと、野球部OBやブランスバンド部など周辺者も含めて地方版の「紙面」を埋めるには欠かせないコンテンツなのが高校野球でもある。多くの紙面を割くことができるスポーツ紙やテレビ、ラジオにとっても、高校野球が魅力的なのは変わらない。

 もちろん、日本高校野球連盟もさまざまな対策は施している。投手の肩、肘の酷使させないように球数制限が設けられたり、ベンチ入り人数が増えたりもしてきた。今回のクーリングタイムも暑さ対策として導入されている。ただ、いずれの対策も、問題の根本的な解決を目指すものではないのではないだろうか。

 そして、メディアが対策の「検証」にどこまで前向きかは、高校野球という魅力的な「スポーツイベント」とメディアの関係を考えれば疑問符がつくのが実情だろう。


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