2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2023年8月30日

 こうした二国間関係により、インドは22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を非難する国連安保理や国連総会の決議案全てを棄権し、ロシアとの関係に歪みをつくらないように努めている。

インドに流入するロシア産原油

 ウクライナ危機下、インドはエネルギー面でもロシア依存を強めている。その背景には、欧州によるエネルギー面での脱ロシア依存の試みがある。

 欧州連合(EU)加盟国はロシアの戦費につながる資源収入を断つため、対ロシア制裁を強化し、22年12月に海上輸送による原油輸入を停止したほか、23年2月に石油製品の輸入も禁止した。さらに、主要7カ国(G7)とEUは追加制裁として、ロシア産原油の上限価格を1バレル当たり60ドルに設定している。

 一方、西側諸国の対ロシア制裁は、インドへのロシア産原油の流入を加速させる契機となった。インドは、調達先としては地理的に離れ、従来少なかったロシア産原油の輸入量を、ウクライナ侵攻後に急増させた。

 インド商工省の統計によれば、インドの22年度(22年4月〜23年3月)のロシア産原油の輸入量は、前年度比で11倍に増加し、日量102万バレル(bpd)を記録した。国別ではこれまでの主要輸入先イラクやサウジアラビアを上回り、インドがロシア産原油の最大の買い手国となりつつある。

 インド(並びに中国)がロシア産原油の購入を進めたことで、ロシアは石油輸出収入を維持できており、西側諸国による制裁の効果が薄まっている。国際エネルギー機関(IEA)の23年8月の石油市場レポートによると、ロシアの23年7月の石油輸出収入は153億ドル(前月比プラス25億ドル)に達し、22年11月以来の高水準で推移している。このようにエネルギー消費大国であるインドがロシア経済を下支えしている。

 加えて、インドは国内石油需要に対応しながら、ロシアが締め出された欧州の石油製品市場への参入を図っている。ボレルEU外務・安全保障政策上級代表は、インドによるEU向け石油精製品(ジェット燃料やディーゼル等)の輸出量が、ウクライナ侵攻前(22年1月)の110万バレルから、23年4月には740万バレルに増加したことを明かした。

 インドは世界有数の石油精製能力を持ち、財閥系民間企業の「リライアンス・インダストリーズ(Reliance Industries)」および「エッサール・オイル(Essar Oil)」が精製分野を牽引してきた。エッサール・オイルは17年にロシア最大の国営石油会社「ロスネフチ(Rosneft)」の傘下に組み込まれ、現在は「ナヤラ・エナジー(Nayara Energy)」という社名で活動している。 

 インド企業は、経済制裁の影響で国際原油価格より安価となったロシア産原油を大量調達し、高い利潤が得られる欧州市場に精製品を輸出している。このため、インドがウクライナ危機下で流動的なエネルギー市場から恩恵を受け続けるには、ロシア産原油の安定調達が不可欠となっている。


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