2024年11月22日(金)

田部康喜のTV読本

2023年7月19日

 NHKスペシャル・混迷の世紀シリーズ「台頭する“第3極”インドの衝撃を追う」(7月16日よる9時、再放送・20日0時35分)は、人口で中国を抜いたうえに、国内総生産(GDP)が2027年には日本とドイツを凌いで世界第3位に躍り出ると推定されているインドの実像に迫るドキュメンタリーの傑作である。

人口の増加とともに着実に経済成長を遂げるインド(Kalpit Bhachech/gettyimages)

 デジタル技術をテコとして経済成長を続ける、あるいは新興国・途上国の「グローバル・サウス」のリーダーになろうとしている、また米中の新冷戦とウクライナ戦争による地政学的な大変動のなかでしたたかに政治力を発揮している……。政治、経済、社会のインドについての情報は、断片的で全体像を捉えているとはいえない。

 インドが今世紀と次の世紀の世界をどのように変化させるのか。明日の人類のありようを考えるうえで、必見の作品といえる。

「デジタル大国」として着実に成長

 ナレドラ・モディ首相はインドについて次のように自信を持って語る。

 「私たちの時代を迎えようとしている。この世紀に私たちは新たな国家秩序を築いていく」

 人口はすでに14億2800万人となって、中国を抜いて世界一である。国民の平均年齢は22日時点で27.9歳。中国の38.5歳や日本の48.7歳と比べるとはるかに若い。

 経済の潜在成長力はほぼ人口増に比例するといわれる。インドのGDPは過去10年間、平均約6%の成長を遂げている。

 「デジタル大国」が経済成長の基盤となっている。インド政府が2010年代から取り組んできた政策である。町の各所に個人IDを登録する施設がある。

 生年月日だけではなく、目による虹彩認証や指紋認証ができる。虹彩や指紋が変化しない5歳以上の国民が対象である。

 このシステムは民間企業に公開されている。これまで銀行口座や携帯電話を取得できなかった人々が使用可能になる。町の露店でもQRコードによるオンライン決済ができている。また、指紋認証によるATMからの現金の引き出しも可能だ。

 インドのデジタルシステムは、農業分野にも貢献している。農民が病気になった稲の写真を専門会社に送信すると、その原因がわかる。それに効果がある農薬の購買サイトに飛んであっというまに購入もできる。

 農業用アプリ企業(ベンガルール)のCEOによると、全国200万戸の農家を顧客として、売上高は2年間で51倍、今年は200億円になるという。「政府のシステムを使って農業でなにができるかを考え、私はチャンスをつかんだ」と胸を張る。


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