インドは1990年代、欧米のIT企業の下請けとしてプログラミングなどをしていた。若者たちはいま、海外企業の就職を目指して、富を築いて帰国して新たな起業家を育てようとしている。
政府による個人IDの発行については、プライバシーの侵害の批判があり、現実に最高裁でその主張の一部が認められた判例もある。しかし、政府は法律を改正して、その政策のスピードを緩めようとはしない。
インドが独自のデジタルシステムの構築に乗り出している背景として、英国による過去の植民地支配の記憶がある。欧米の巨大IT企業に国民の購買行動などが把握されていたことに危機感を抱いたのである。デジタル分野で米国企業の「植民地」になる事態を避けようとしたのである。
インド固有識別番号庁の初代長官を務めたナンダン・ニレカニ氏は次のように語る。
「個人IDは国が個人データを収奪して、一元管理するものではありません。国民のプライバシーは厳格に保護されています」
製造分野でも世界トップへ
デジタル分野だけではない。インドは兵器や半導体の生産拠点を目指している。
兵器はこれまでロシア製に頼っていたが、装甲車なども自前で製造できるようになって国連に納品するまでになった。さらなる輸出を狙っている。
インド防衛企業会長のババ・カリヤニ氏は、将来像の見通しを語る。
「インドは2030年には、防衛分野で完全に自立し、ミサイルをはじめあらゆる兵器を国内で製造していることだろう。モディ首相のリーダーシップは国民を一致団結させインドの強さを引き出している。誰もが心打たれる」
インド南部では大規模な半導体製造拠点の整備が進んでいる。これに伴う電力施設、飛行場づくりも。投資額は3兆円に及ぶ。4年後の生産開始を目指している。
新工場を運営するインドの半導体製造会社のCEOのデビッド・リード氏は、半導体製造の王者の変遷を語ったうえで、インドが先頭に立つと予言する。リード氏は米国の半導体企業からヘッドハンティングされた。
「インドの戦略は見事で大胆です。1990年代は日本が半導体の王者だったとき、私は日本で働きました。その後、王者は韓国、台湾、中国と移り変わり、これからはインドの時代が訪れるでしょう」