原子力産業においても蜜月の関係
インド原子力産業においてもロシアが重要な役割を担っている。インドは中国の核保有に対抗する形で核開発に踏み切り、1974年には核実験を敢行し、6番目の核保有国となった。
しかし、米国や英国、カナダなどはインドに対し、核燃料を含む資材の禁輸措置を発動し、カナダはインドに建設中のラジャスタン原子力発電所2号機から撤退した。その後、2008年 9 月に開催された原子力供給国グループ(NSG)で、インドへの原子力輸出がようやく解禁されたものの、過去の経緯から、インドは西側諸国による原子力協力を十分に信頼していないと見られる。
一方のロシアは、核実験を機に孤立を深めたインドの原子力産業を支援してきた。ロシアはNSG の解禁前よりインドに原発を輸出してきた。
01年、インド南端タミルナドゥ州にあるクダンクラム原子力発電所の1号機および2号機(各100万kW)の建設を受注し、それぞれ 14 年と16 年に商業運転が開始した。また、3号機および4号機(出力各100万kW)の増設も17年に着手した他、21年より5号機および6号機(出力各105万kW)の建設も手掛けている。
原子力分野におけるロシアの強みは、原子力発電用燃料であるウランを生産および加工できる点である。ロシアは数少ないウラン生産国であり、発電用燃料に加工するためのウラン濃縮技術に長けている。世界原子力協会(WNA)によれば、ロシア企業全体の濃縮能力は20年に世界シェアで46%に達し、ロシアが濃縮ウラン市場の占有率で欧米諸国を圧倒している。
そしてロシアによる原子力発電所の建設契約は通常、長期燃料供給契約を含む「フルサービス契約」であるため、ロシア製原発を導入した国はロシアから燃料供給を受ける流れとなる。加えて、ロシアは他国製の原子力発電所にも燃料提供が可能であり、実際、インド西部マハーラーシュトラ州にある米国製タラプール原発も01年よりロシアから燃料供給を受けてきた。
さらに、インドは原発事業において燃料供給だけでなく、財政面でもロシアを頼っている。クダンクラム原発3号機および4号機の増設費には、ロシアの政府融資が投入されている。ロシアの融資枠は、工事や資機材、関連サービスといった経費の85%に相当する34億ドルのほか、燃料供給費として8億ドルが用意された。
対インド融資の金利は年率4%と低く設定され、インド優遇の融資条件ではあるが、ロシアの政府融資は将来的に、インドの財政負担を増やすことになる。この先、仮にインドで債務危機が生じ、ロシアへの債務返済が滞る事態となれば、ロシアが債権国として、インドに対する政治的影響力をより握る可能性もあるだろう。
脱炭素化の流れの中、インドは70年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロとするという目標を掲げ、温室効果ガスの大半を占めるCO2を排出しない原子力を最大活用する計画だ。47年までにインドの総発電量に占める原子力の割合が9%に増加する見通しであるため、今後激化していくインド原発市場での受注競争において、燃料供給国として強みを持つロシアの牙城を崩す国が出てくるかが注目される。