インタビューでは、ミレイは自らを「無政府資本主義者」と位置付け、本来、社会における財とサービスはすべて個人の自発的な契約により支配されるべきであり、納税の強制や所得の再配分などを行う政府を犯罪組織と見なすという極端な哲学を信奉している由である。ただし、現実には、財産権を保護するために軍隊、警察、裁判所等最低限の国家機能だけは認める「最小国家主義者」、すなわち極端な「小さな政府」の信奉者のようである。
公約では国家の規模の縮小が基本目標であり、大統領就任1年以内に公共支出の対国内総生産(GDP)比(現在38%)を15%削減し、プライマリーバランスの赤字をゼロにするとしている。そのために電気・ガスの補助金廃止、省庁の数を18から8に削減、公共事業は入札により民間資金で実施、連邦政府から各州政府への資金移転を廃止、大統領等高級官僚の特権的年金の廃止、34の国営企業の民営化、税金の大幅な減税又は廃止等を主張する。
そして最も注目を浴びているのがインフレ対策と為替変動の影響をなくすための中央銀行の廃止と国内通貨をドルにする提案である。経済のドル化は、エクアドルなどにも前例がありインフレ抑制効果があるが、問題は、国内経済を回すために必要なドル(400億ドルとミレイは想定)をどう調達するのかである。
ミレイは、インタビューで、アルゼンチン人が海外に保有しているドル資金の還流や公的債権や国営石油企業の株から成る基金を設立し、これを担保にドルを調達する等述べているが、そううまく行くかは疑問だ。これらの改革は周到な準備やIMFとの調整も必要で、ミレイには、これだけ極端な改革を推し進めるだけの計画性や政治力があるのか疑問であり、机上の空論に近いようにも聞こえる。
大衆の期待に応えられるのか
しかし、8月の予備選後の世論調査では、依然としてミレイが30%以上でトップを維持しており、2位は、与党ペロン派のマッサ経済相と中道右派のボルリッチ元治安相が20%台で争っている。そして決選投票となった場合には、ミレイ対マッサ、ミレイ対ボルリッチ、いずれの組み合わせでもミレイが勝つと予想される。
長年のインフレや放漫財政に対する怒りを既存の政治家に向けている有権者の多くにとって、インフレだけでも抑制できるのであれば大きな魅力であり、アウトサイダーのミレイに対する大衆の期待は侮れないであろう。
もっとも、仮にミレイが当選したとしても議会では少数与党となりこれらの改革がスムーズに実現することにはならないであろう。議会の抑制に対し妥協すれば良いが、そのような状態にミレイがどう反応するかは予想がつかず、アルゼンチン経済のみならず政治の動揺や混乱が続くことが懸念される。