2024年5月20日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月5日

 米ウォールストリート・ジャーナル紙の8月14日付け社説‘Middle-Class Revolt in Argentina’は、アルゼンチンの大統領予備選挙で、極右ポピュリストのハビエル・ミレイがトップに躍り出たことを、既存の政治家に対する中産階級の怒りの表れと評価するとともに、同人の大統領としての能力に疑問を示している。要旨は次の通り。

アルゼンチン大統領候補のハビエル・ミレイ氏(写真:AP/アフロ)

 インフレは中流階級の富を奪うものだが、アルゼンチンでは物価が115%以上も上昇している。したがって、13日の同国の大統領予備選挙で、中央銀行を閉鎖しペソをドルに置き換えることを公約しているアウトサイダー候補のハビエル・ミレイ(自由前進党の下院議員)に最多票が投じられたことは大きな驚きではない。

 かつて繁栄していたアルゼンチンは、ペロン派の社会主義によって衰退し、またもや通貨危機に瀕している。国際通貨基金(IMF)から440億ドルを借りているが、経済は行き詰っている。

 国際メディアはミレイを風変わりなポピュリストとして扱うが、彼が左派も右派も軽蔑しているのは間違いなく、動員した若者の群衆を前に「既成の政治カーストはすべて愚かで役立たず」と罵る。

 ミレイは経済学者で、小さな政府を支持し、アルゼンチンの経済問題の原因を重い課税、過剰な規制、特定利益団体のための補助金と保護主義にあると非難する。彼は市場を開放し、公共支出を削減し、資本規制を廃止し、国有企業を民営化したいと考えている。社会的には保守主義者であるが、彼の魅力は主に体制に対する彼の怒りからきている。

 外貨準備高がマイナスに転じているこの国の次期大統領は経済的混乱を引き継ぐことになる。もし、現状を打破しようとするミレイへの期待が有権者の3分の1を惹きつけるのであれば、同時にそれは当選した場合のミレイの統治能力についての疑問を提起するものでもある。彼の党は、下院に2議席しか有しておらず、それは彼が現在酷評している既成政治家の協力を必要とすることを意味する。

 今から10月22日の第1回の投票までに多くの出来事があるであろう。しかし、ミレイの登場は、アルゼンチンと世界に対して中産階級はその労働の果実を収奪する現状をもはや受け入れないとのメッセージを送ったのだ。

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 アルゼンチン経済は、長年にわたりインフレと通貨下落に悩み、デフォルトを繰り返してきたが、近年の左派・正義党(ペロニスタ)政権で特にその傾向が強まり、最近では100%を超えるインフレと干ばつによる農業生産の不振により国民の4割が貧困に苦しむ状態であった。


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