途上国ならではのデジタル化
研修では、13カ国のカントリーレポート発表というセッションで、各国の参加者は、自国における農業の概要、普及事業(農業技指導制度)の特徴、その方法について、パワーポイントを使ってプレゼンテーションを行った。各国農業の進展状況の違いや普及指導の最新状況、今後の普及指導方法について情報交換がなされた。プレゼンには、各国の圃場や生産者の写真などが度々使われていたため、各国の農業や技術指導の現状をイメージできた。
普及指導方法については、国連食糧農業機関(FAO)などの指導が行き届いているせいか、どの国の方法も似通っていた。ただし、いずれの発表も、教育が不十分な農民を指導するといった論調が多く、指導方法はトップダウンという印象を受けた。この点、日本では、第二次世界大戦後、米国から民主的な普及事業が導入されたため、公的普及指導員は生産者と一緒に考えて問題解決に当たるという手法が採られている。
ICT活用に関しては、多くのアジアの国々で農民にパソコンよりスマホが先に普及したためか、農民のスマホの保有率は80%ほどと高く、スマホの活用はどの国も進んでいるように感じた。各国では、スマホを使った土壌、栽培、市況、金融関係サービス、YouTubeによる栽培指導などのサービスが展開されている。英語だけでなく、母国語で使えるアプリも多く、スマホ一つあれば農民がどこでも手軽に情報を入手できる点は利便性が高いと感じた。
日本の大規模化の特徴
これに対し、日本のスマート農業の場合は2019年からスマート農業実証プロジェクトとして、国主導で行われてきた。自動操舵トラクターやドローンなど最新機器の導入は大規模事業者を中心に急速に普及し、既存のスマート農機を使うだけに飽き足らず、一部生産者が除草用ロボットや自動水門などを自作している。日本のスマート農業がハード主体との課題はあるものの、技術開発が生産現場から生まれているという点が、基本的にトップダウン型のアジア各国にとっては新鮮に映ったとみられる。
こうしたスマート農業の普及の裏には、日本農業の構造転換がある。農業労働人口減少などと相まって、一部の経営体に土地集積が進められたり、集落全体で経営を行ったりして、大規模化しているのだ。全国の農林業経営体数(令和2年2月1日現在)は109万2000経営体のうち、販売金額が3000万円以下の経営体が減少している反面、3000万円以上を売り上げる経営体が増加を見せている。
経営体の大規模化が進み、これらの経営体を中心に農作業の省力化や経営の効率化のためにスマート農業が普及しているのが日本の現状だ。こうした流れは、他のアジアの研修員には異次元に感じられたようだ。