「農業は恥ずかしいですか?」。以前、農家(生産者)から何度かそのような質問を受けたことがある。筆者も「農業関係の仕事珍しいね。なぜ農業関係の仕事を選んだのですか?」と好奇の言葉をかけられた経験が度々ある。
最近こそ、ロシアのウクライナ侵攻の影響で、食料品の値上げも相次ぎ、国内農業の重要性が再認識されている。 また、政府が食料・農業・農村基本法の検証・見直しに向けた検討を行っており、農業の将来方向が注目されている。しかし、バブル崩壊前日本の貿易黒字が問題になっていたころ、工業製品をもっと輸出し、農産物は輸入すればいいと言った国際分業論まで本気で議論されていた。
農業は日本にとって、あまり重要な産業でなく、恥ずかしい職業だろうか。データと実例から、農業の実態を見ていきたい。
農業の仕事は国に寄与していないのか
農業を含む第一次産業は国内総生産(GDP)比約1%と長らく横ばいである。第2次産業のシェアは約25%、第3次産業のシェアは約70%と比べると著しく低いと言える。
ただ、こうしたGDP比率の低さから農業が価値を生んでいないとは言えないようだ。
浜松市春野町の山下光之さんは、4代続く生産者で「笑顔畑の山ちゃんファーム」の代表を務める。東京農業大学で農芸化学を学び、元プロボクサーとの異色の経歴ももつ。中山間地の約2ヘクタール(ha)で米・野菜・茶などを栽培するのに加え、切り干し大根の生産も拡大している。
山下さんは大好きなふるさと春野町で農業をしたいと、大学を卒業後3代続く農家を継いだ。経営は順調であったが、近年、化学肥料代や資材費の高騰が大きな負担になっているだけでなく、異常気象の影響で、農産物の生産に大きな影響が出ている。22年と23年は、豪雨によりハウスが1メートルほど潅水し、経営の柱である水菜が大きな被害を受けた。
近年の異常気象を鑑み、新たな試みとして保存が可能な切り干し大根の加工に力を入れている。また、20年度と21年度、国のスマート農業実証プロジェクトに参画。スマート農業にも取り組み、労力の軽減や農業の楽しみなど新たな経営展開も模索している。
また、「子供たち世代に美しい春野町の原風景を残していきたい 」(山下さん)との思いから、耕作放棄地を再生し、加工用の大根を栽培するなど、地域の農業維持を続けようと動いている。