2024年5月11日(土)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年9月27日

 大規模経営体に対する認識も異なるようだ。マレーシアの研修員から「日本の大規模経営者は、(輸出のために単一作物を大量に生産する)プランテーション経営者か?」との質問があった。筆者は「日本では農業は他分野からの参入者もあり、大規模経営体に成長する場合もあるが、基本的には当初は家族経営であり、それらが法人化された場合が多い」と説明した。

 農村地帯で労働力が豊富な他のアジアの国々では、このような大きな変革は起きていないという。農業のなり手不足は日本の課題とされてきたが、公的普及事業を長年地道に進め、生産者を育成してきた成果が出つつあると評価することもできそうだ。

 農家の高齢化という逆境を逆手に取り、離農に伴う農地の集積・集約を図りながら、スマート農業で効率化を図るという〝日本型〟の経営スタイルは、中山間地は別にして、全国的に大規模化が可能なところで積極的に推進してきた方向性は間違っていなかったのだろう。

 「これらの農地は経営体が購入しているのか、借りているのか?」と、研修参加者から疑問が出た。「離農する農家から借りていることが多く、それらは分散して存在している。分散した圃場を管理するためにも、スマート農業の一つである生産管理システムが必要で、その普及が進んでいる」というのが現状だ。スマート農業普及の理由がアジア各国とは異なるものとなっているようだ。

日本人が「普通」と思っているJAの特徴

 次に日本の普及組織の功績とともに関心の高かったのは、JAの活動だ。

 バングラデシュなど発展途上国では、コールドチェーン(低温物流)が整備されていないこともあり、「野菜などの生鮮農産物が買いたたかれることが多い」と同国普及員から個別に説明を受けた。そのためか、「そもそもJAとはどのような組織か?」「JAの会員は農家だけなのか?」や、「JAを通じて農産物の集荷、直売所の管理、指導をどのような戦略で行っているのか?」といった質問が多く、研修期間中に新たにJAについて説明する資料を作成したほどである。

 JAの農産物販売・農産物安全管理の現状に関する説明に対し、バングラデシュの方から「市場に出回っている農産物の安全性に不安がある」と声をかけられた。JAは、公的普及組織と生産者に生産履歴の記帳や研修会を通じて、農薬の安全使用を徹底させたり、JAが衛星画像システムのザルビオの利用を積極的に進めたりしている。

 具体的には、農薬の散布時期・量を記載した栽培暦を公的普及指導員が作成し、栽培記帳のチェックをJAの営農指導員が行う。公的普及組織とJAが協力しながら、農産物の販売を含めて生産者の生活向上に貢献してきている。

 これに対し、バングラデシュをはじめ他のアジアでは、農業組織はあるものの、地域限定の組織などと規模も小さく、農民への影響力は限定的のようだ。流通事業者や小売店は、生産者がどのような農薬をどれだけ使っているのかあまり管理ができていないという。日本にいると当たり前に感じられる農産物の品質が、普段あまり気づかれていない日本の強みとなっている。


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