佐野洋子なら、いや少なくともこのときの60歳を前にした佐野洋子なら「オールド」の異空間を楽園と思ったのではないだろうか。それは自殺とも違う。安楽死でもない。たった1日で一気に年を取り、不安も憂いも、まだしも感情が脈々と波立っていた若かりしころの贅沢なのだと後ろに追いやり、静かに、そして穏やかに消えていく。
それはある種の人たちにとっては、恐怖どころかむしろ僥倖なのではないか。そう思いもするが、それは本当の老い、80代、90代という年齢を知らない者の子どもじみた夢想なのかもしれない。
あなたならどうするのか
死はある程度感じられても、老いはリアルには想像しがたいとよく言われるように、身をもっての経験がものを言う。
それに、どんな状況に追い込まれても、最後の最後まで生き残ろうとするのが人の本能的な振る舞いでもある。だとすれば、そこを楽園だとは、やはり言い切れないだろう。
「オールド」はタイトル通り、老いて死ぬこと、そのときの自身の感慨を考えさせてくれる作品だ。