好きなメキシコの俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルが出演していると聞き、映画「オールド」(M・ナイト・シャマラン監督、2021年)をなんの予備知識もなく見た。B級ホラーという言い方は失礼になるが、設定、ストーリーの荒唐無稽さ、それに、細部の作り込みにやや無理なところがあるにはある。それでも、最後まで画面に引き込むのは、たとえそれが漫画的な嘘八百であっても、老い、死を描いているからだろう。
舞台は〝異空間〟のビーチ
舞台はどこか架空のリゾートホテルである。そこに休暇で訪れた40歳前後とみられる夫婦と幼い子ども2人を中心に物語は進む。来てそうそう、夫婦喧嘩が始まり、彼らが離婚寸前の危機にあることが見る者に知らされる。夫はそれを克服できないかと家族旅行を企てたようでもある。
そんな家族が高級リゾートのツアーでプライベートビーチを訪れるところから不穏な空気が流れ出す。そのビーチには他にもカップルら複数の客がやってくるが、その浜辺が異空間であることがほどなくわかってくる。しかも、そのビーチから逃げようと、岩場を越えたり、海を泳いだりしても、何かのバリアがあって決して抜け出せないこともわかる。
そこがどうもおかしいと全員が気づくのは、幼かった子どもたちが短時間でみるみる成長し、大人の体型へと変貌したためだ。そこは、時間が凄まじい速さで流れ、たった1日で50年もの月日がすぎてしまう異空間だった。
そこにある奇怪な形の岩場など特殊な地質が原因かもしれないといった推測も挟まれるが、当然ながら、なぜそんなことが起きるのかは明かされないし、細部に矛盾もある。
例えば、運命を共有させられたリゾート客同士で争いが起き、誰かがナイフで切りつけられても、その傷口が瞬く間に治ってしまう。これは、時間の経過が異常に早い世界だからそうなのだろうとまあ納得はする。が、その間の人間の成長、老いに欠かせない栄養摂取はどうなっているのか、といえば、どうもそれは子どもたちを別にすれば不要のようで、大人たちは食欲もなくなるのか、ただただ老いていく。
浦島太郎は、開けてはいけないと言われた玉手箱をのぞいた途端、おじいさんになってしまう。それと同じ一種のおとぎ話と考えれば、不可解な出来事への事細かな原因説明はいらないし、細部も矛盾点も、さほど気にならない。
「残りの人生」をどう生きるか
そんな異常な世界で人はどう反応するのか、どう抗うのかというのが物語の要(かなめ)だ。
中には脱出を試み、それができないと知ると気が変になる者も、暴力的になる者も、ひたすら鬱屈する者もある。
そんな人々の惨状を見せられたあとの終盤、ガエル・ガルシア演じる主人公とその妻が夕日の沈んだ海を見ながらたたずんでいる。