両親以外に、学科別の家庭教師を雇って学習させるケースも少なくなく、「全国教育統計センター」(NCES)の集計によると、今日、5歳から17歳までの「ホームスクール」学習者数は着実に増えつつあり、すでに全米で約180万人にも達している。
家庭だけでは偏る教育の中身
しかし他方で、こうした教育面における「Do It Yourself」(DOIT)の弊害も無視できない。その一つとして挙げられてきたのが、南部諸州における偏った初等教育内容だった。
とくに、アラバマ、テネシー、テキサス、ルイジアナ、ジョージア、アーカンソー各州では、伝統的に、公立学校の理科クラスにおいて、人類が神の意思により誕生したとする「天地創造」説が教えられ、ダーウィンの進化論への言及はタブー視されてきた。
さすがに今世紀に入り、ほとんどの州で進化論も教えられることになったが、それでも、テキサス、バージニア、ルイジアナなどの州では、人類の起源については「両論が存在すること」「進化論の説得性と弱点」「創造説の可能性」といった柔軟性を持たせたテーマでの教育が今日なお存続している。
さらに、最近の「ギャラップ」世論調査で、「公立学校では天地創造説のみを教えるべきだ」とする回答者がいまだに全体の16%にも達していること自体、これまでの地方任せのゆがんだ教育がいかに子供たちの思考に影響をあたえてきたかを示している。
また、政府規模の歯止めのない拡大に異論があるとしても、教育面で予算カットや人員削減に踏み切った場合、地方自治体の公立学校の運営に支障を来たし、学級数の縮小、閉鎖などを通じ、貧困家庭の子供たちが取り残されたりするおそれもある。
すでに南部諸州ではこれまでにも、黒人、ヒスパニックなどのマイノリティのみならず、「プア・ホワイト」家庭の生徒たちの非行、教育レベル低下などの問題が指摘されており、 「地球温暖化」などについての基本的な科学知識の欠如や、低い識字率の実態は憂慮の対象となっている。
ちなみに、全米平均の識字率は、日本(99%)などと比べても、79%にとどまっているおり、このうち、ニューメキシコ(70.9%)、テキサス(71.8%)、ミシシッピー(72%)、ルイジアナ(72.9%)など、南部諸州の低さが特に目立っている。
こうした現状を踏まえ、民主党側は今後、共和党が主張する教育省の廃止や予算大幅削減などの措置が実施されることになれば、教育の現場の荒廃のみならず、ひいては貧富の差の拡大、雇用ギャップの深刻化に拍車をかけ、大きな社会問題となるとして声高に反論していく構えだ。
結局、共和党候補者たちの撤廃論は、歴代共和党政権がそうであったのと同様、選挙目当ての掛け声に終わる可能性が高いと見てよさそうだ。