物価を加味した地域格差
図2に示した「最低賃金の改定幅とこれまでの最低賃金との関係」では、これまで賃金が比較的に低かった地域ほど改定額が高くなっており、金額的な差異が縮まる傾向があることを示した。しかし、最低賃金は名目的な金額を示しているだけである。審議では、物価水準も考慮に入れた改定とされているが、以下では各地の物価の水準を考慮した実質的な水準について比較することとしよう。
図3は横軸に各都道府県のこの1年間の物価上昇率、縦軸に2023年度/2022年度の最低賃金の改定率を示したものである。図中右下の赤の実線は物価上昇率=最低賃金改定率となる場合の45度線である。
これを見ると、どの都道府県とも青い点で示された改定率は赤実線の左上方に位置していることが分かる。このことは「地域の物価上昇率を超える最低賃金の改定率となっている」ことを意味する。
しかし、青い点の中での分布をみると別のことが分かってくる。これは、各地域の物価上昇率の大小の傾向(グラフの横の開き)に比べて、最低賃金の改定率の大小はさほど大きくないということである。このため、図に示されている赤い点線の傾きが赤い実線よりもなだらかである。
増加する最低賃金で働く人たち
以上のことから、23年の最低賃金の改定は、物価上昇率を上回る水準で、平均時給で1000円を超えた点は評価できる。これにより金額の面で見た地域別の最低賃金格差は漸減していく傾向にある。しかし、地域別の物価上昇率と比較してみると、まだ格差が完全には解消できない部分も残されているといえる。
最低賃金制度が規制しているのは「最低」の賃金であって、実際の市場賃金が十分これよりも高ければ、問題はないともいえる。しかし、現実には最低賃金で就労している労働者の割合は増加してきている。図4は、最低賃金額を改正した後に、改正後の最低賃金額を下回ることとなる労働者割合である「影響率」の推移を示している。
これを見ると、新型コロナウイルスの流行による影響が見られる20年度を除けば、最低賃金の近傍で働く労働者の比率は一貫して上昇し続け、20%近くに達しつつあることが分かる。最低賃金の推移を見守ることは、労働者の最低の生活を守るためという側面のほかに、労働市場で低賃金で就労している人々の状況も把握するという重要な意味を持ちうる。